雑記587. 2025.10. 2
“ 花軸の原初形態? ”
2018年12月、掖谷公園 [ 所在地:兵庫県神戸市 ] のウラジロガシに季節外れの花が咲きました(*)。ブナ科の樹木における季節外れの開花は、コナラやナラガシワのようなコナラ亜属の樹木では珍しくありませんが、ウラジロガシのようなアカガシ亜属の樹木では極めて珍しく、当時このHPに掲載した記事が、メディアで紹介された初めての事例ではないかと思います。
* 雑記331を参照願います。
さて、2018年に初めて目撃した花序は、開花してからかなり時間が経っていたので、花軸に残された雌花序は幼果へと変貌し、雄花序の大半は花粉を放出して枯れ落ちていました。それ以来、開花直後の花序を撮影するために、毎年秋がくる度にこの個体をチェックしていたところ、2020年9月に雄花序のみの開花(**)を目撃したのですが、これも開花してからかなり時間が経っていたため、花軸の詳細な構造を知ることができませんでした。そしてこれを最後に、この個体に再び季節外れの花が咲くことはありませんでした。
** 雑記403を参照願います。
一方、2024年5月に、この個体に隣接した別のウラジロガシで、前年の秋に開花したと思われる花序の残滓を見つけました(***)。そこで、この個体についても先の個体と併行してチェックを続けてきたところ、今年の9月に待望の花が咲いたのです(図8-587-1参照)。
*** 雑記532を参照願います。
9月中旬に開花が認められた枝の数は全部で16箇所でした。そして、花序の大半は雌花序、もしくは両性花序で、雄花序はごく僅かでした。また、初めてウラジロガシの開花を目撃した個体では、1つの冬芽から現れた花軸は1本だけでしたが、この個体では複数本が現れたもの(図中上段)の方が、1本だけのもの(図中下段)よりも多く見受けられました(図8-587-2参照)。
これらの枝から採取した花のディーティールを図8-587-3、図8-587-4に示します。花軸は、春に咲く通常のものよりも長く、最長で60mmぐらいありました。また、そこに咲いた雌花序(両性花序)は、多いもので30個以上ありましたが、春に咲くウラジロガシの花軸との決定的な違いは、雌花序のほとんど(もしくは全て)が多果(3果)で、単果は咲いても花軸の先端付近に数個しか見られなかったことです。
これら図の花軸のように、1つの冬芽から多果形態の両性花序に埋め尽くされた花軸が単体で出現した姿こそ、太古の昔のコナラ属の樹木に、花軸というものが初めて現れた時の原初形態だと私は推測しています(****)。
**** セクション30-1を参照願います。
余談になりますが、季節外れに開花したこれらの個体の共通点として、通常の花期における多果の発現率が一般のウラジロガシに比べると非常に高いことが挙げられます。
最初に季節外れの開花を目撃した個体は、以前毎年のように大量の多果を発現していましたが、数年前からは滅多に発現しなくなりました。一方、今回季節外れの開花を目撃した個体は、初めてこの個体を目にしてから10数年経ちますが、現在に至るまで相当な数の多果を発現し続けています。ですから、この点に着目して長期的に観察を続けていれば、他のウラジロガシでも季節外れの開花を目にすることができるのかもしれません。