雑記576. 2025. 5.28
“ 遅咲きのアラカシ ”
 国産のドングリの樹の中で、結実期が最も長いのはアラカシです。早いものは10月中旬頃、そして遅いものは1月下旬〜2月上旬頃に結実します。一方、それぞれの個体における結実期とは無関係に、花期が最も長いのもアラカシです。こちらも、早いものは3月下旬頃、そして遅いものは5月下旬頃になってようやく花を咲かせますが、5月中旬〜下旬にかけて開花する遅咲きの個体には、アラカシでは珍しいある特徴を目にすることがあります。
 アラカシはシラカシとよく似ていますが、シラカシのようにたくさんの多果の花を咲かせたり、ましてやそれらが結実に至ることは稀です。ところが、アラカシの中でも花期が非常に遅いものの中には、多果の花を大量に咲かせる個体が少なからず存在します。ちなみに、ここでいうところの大量のレベルは、ほとんど全ての新枝に複数個の多果の花が咲いている状況を意味します。一例として、塩瀬中央公園 [ 所在地 : 兵庫県西宮市 ] にある個体の花期の様子を図8-576-1〜3に示します。この個体は初めて多果の花を目撃してから5年になりますが、毎年この時期になると、シラカシのようにたくさんの多果の花を咲かせます。

 
 以前、雑記075で5月中旬以降に多果の花を大量に咲かせる個体を紹介しましたが、その後も京阪神の随所で同じような時期に多果の花を咲かせる個体を目撃してきました。ただ、これらの個体はいずれも多果の花を咲かせるものの、これまで一度も結実したことがなく、8月に入ると幼果の枯死が始まり、同月の内に多果だけでなく単果までもが全て死滅してしまうのです。

 塩瀬中央公園の個体も、7月頃までは順調に成長しているように見えるのですが、8月になると枯死するものが目立ち始め、9月に入る頃には樹上から全ての幼果が消失します。図8-576-4は、同園の個体で脱落する直前の多果の幼果を撮影したものです。

 5月中旬以降に開花する個体は、同時期に開花する個体の数が極端に少ないので、他の個体からの活性な花粉の授受が難しくなります。7〜8月と言えばアラカシの幼果が受精する時期であることを考えると、この時期に幼果が脱落してしまうのは、受精に与ることができなかったのが原因ではないかと思われます。