雑記546. 2024.10. 7
“ クリの花柱 ”
 自宅近隣の人家の庭や田畑の畦道、そして雑木林にはたくさんのシバグリが植栽されており、この時期になると毎年多くの個体が結実します。クリの仲間は、1つの殻斗の中に1〜3個の堅果を包含しますが、国産の野生種(シバグリ)や栽培種は変種等の例外(*)を除いて必ず3個の堅果を包含します。
* ハコグリは1つの殻斗の中にたくさんの堅果を包含します。私が以前に採集したものは、不稔のものを含めて全部で9個の堅果を包含していました。

 また、国産のクリの実は3個の堅果が全て結実したものより、その中の1個乃至2個が不稔であることが一般的です(図8-546-2参照)。


 私は以前からドングリの花柱の数に着目して調べていますが、その数はコナラ属やマテバシイ属、シイ属でほぼ変わらず、概ね1〜6本の範囲にあります。但し、コナラ属だけは例外で、季節外れに開花するコナラや、多果を大量に発現するシラカシでは、稀に10〜20本前後のものを発現します(**)
** 花柱の本数が極端に多いものの例については、セクション14-3を参照願います。
 一方、クリ属については、上記の3属よりも平均的な花柱の数が多い(一般に、6〜9本と言われている)のですが、私自身は詳しく調べたことはありませんでした。そこで今回は、自宅近隣の野山に自生、もしくは植栽された個体を対象に、クリの花柱の実態を調査してみました。

 
 その結果、ほとんどは7〜9本の範囲にありましたが、稀に10本のものが認められました(図8-546-3 右下参照)。但し、結実しなかった不稔の堅果の中には、なぜか結実したものよりも花柱の多いものが散見され、最大で11本を有するものがいくつか認められました(図8-546-4参照)。
 残念ながら、花柱の数の少ないものについては、本質的に少ないのか、あるいは樹上から落下した時の衝撃によって部分的に欠損したのか判別が難しかったため、6本以下と断定できるものは見つかりませんでした。

 ところで、花柱の数は子房を構成する心皮の数に対応しています。ブナ科の植物では、1つの心皮が2つの胚珠を包含するので、コナラ属で花柱が3本ある典型的な雌花序の場合、その子房は6個の胚珠を包含します。通常、これらの胚珠の内の1個だけが受精しますが、コナラ属ではしばしば複数個が同時に受精し、1つの堅果が3〜4個の種子をもつものも珍しくありません(***)
 そういう点からみると、クリはコナラ属のドングリの倍ぐらいの花柱をもつのに、なぜかこれまでに目撃したのはせいぜい2個の種子をもつ堅果のみです。私には、それが不思議に思えてなりません。
*** セクション3-2-3-1を参照願います。