雑記526. 2024. 2. 7
“ 先端にあるのは小さな殻斗? ”
 先日、以前に採集した大量のブナのドングリをチェックしていたところ、内側に2つの堅果を分離する仕切りのようなものがある殻斗(*)が見つかりました。ブナ属の殻斗にも、コナラ属の多果ドングリに見られる仕切りがあるということに大変驚かされましたが、実はそれだけではなかったのです。

 一般に、ブナの殻斗は2つの堅果を包含しますが、1つしか堅果を包含しないもの(単果)も少なからずあります。今回、この単果の中から、内壁に沿って果軸が伸長した殻斗が見つかりました。該当する殻斗は全部で3つありましたが、それらの内の2つを図8-526-1に紹介します。
* 雑記525を参照願います。

 
 いずれも、果軸の先端部が殻斗の内側から少しばかりはみ出しているのが判ります。先端部をよく見ると、熊手のような形をしており、そこには殻斗の外壁を覆う紐状の小葉のようなもの(図中赤矢印で表示)が認められました。かなりデフォルメされていますが、おそらくこれは小さな殻斗ではないかと思われます。

 殻斗の内側に立つ果軸については、これまでにコナラ属のシラカシやアカガシ、そしてマテバシイ属のシリブカガシでその存在を確認しています(図8-526-3参照)。因みに、この図にある果軸はどれも先端部が不稔の幼果(ほぼ小殻斗のみ)で終端している単調なものですが、同じ殻斗の内側から出現した果軸でも早期に消滅するものの中には、様々な形態が数多く見られます(**)
* セクション33を参照願います。

 
 最後に、残りの1つの殻斗を図8-526-5に紹介します。この殻斗は、採集した当時に殻斗片がイヌブナのように矮小なブナのドングリとして雑記276に掲載したのと同じものです。これを見ると、果軸の先端にある小殻斗が、殻斗の外側から見てもはっきりと識別できるぐらい大きなものであることが判ります。
 殻斗の外側から見ただけでこれだけ目立つものなのに、殻斗の内側から果軸が出現するとは思ってもみなかった当時の私の目には、恥ずかしながらごく普通の単果としてしか映っていませんでした。やはり、フィールド調査をする上で、普段から先入観をもたずに、観察対象と真摯に向き合うことが重要ですね。