雑記520. 2023.12. 2
“ シラカシの特異な紐状殻斗 ”
 殻斗の元になる器官に咲いた雌花が開花直後に退化消滅すると、恰もその消失した雌花を包むかのように殻斗が形成されます。私はこれをその形状から “ 紐状殻斗 ” と呼んでいます。前述した通り、この特異な殻斗が生じる原因は一般によく知られていますが、具体的にどのような雌花が退化消滅するのでしょうか。私はこの現象に興味をもち、そのメカニズムについて長期に亘って独自に調査を続けてきた結果、ブナ科の基本構造である複合雌蕊ではなく、極微な単一雌蕊をもつ雌花の消滅が、この殻斗を生み出すトリガになっていることを明らかにしました(*)
  * セクション3-2-4を参照願います。

 
 さて、この紐状殻斗は単果、多果の形態を問わず様々な樹種でよく見かけます。単果については結実しないことから、開花から数ヶ月程度が経過すると果軸から脱落してしまうことが多いのですが、多果については多くの場合、結実したドングリの殻斗にその姿を残しています(図8-520-1参照)。
 それらは私が命名した通り、どれも細長い1本の紐のような形をしていますが、以前ウバメガシの多果の殻斗の中に、僅かながら先端が二股に分岐したものを見つけました
(**)
** 雑記372を参照願います。
 二股の紐状殻斗が存在する理由として、当時はリング状の鱗片をもつアカガシ亜属よりも瓦状の鱗片をもつコナラ亜属の方が、殻斗を形成する自由度が高いからではないかと推測していたのですが、先日この予想を覆すかのように、先端が二股に分岐したシラカシの紐状殻斗が見つかったのです(図8-520-2参照)。
 

 
 図8-520-2の下段は、この殻斗を様々な角度から撮影したものですが、殻斗の途中から二つに分岐したリング状の鱗片が縺れ合っている様子が見て取れます。ドングリの殻斗は、我々が考えているよりもはるかに複雑な要素で構成されているのかもしれませんね。