雑記510. 2023.10. 7
“ マテバシイも暴走してました  ”
 ドングリを生産するシステムには、春に開花してその年の秋に結実する一年成と、春に開花して翌年の秋に結実する二年成があります。二年成というシステムについては、その存在理由が明らかになっておりませんが、私がこれまで独自に調査してきた結果、このシステムには絶大なメリットが有ることが判りました。

 それは、ブナ科の樹木がその植生域を拡張するのに必要なドングリを、一年成の樹木よりもたくさん結実できること。そしてもう一つは、ドングリが結実する確度を高められることです。今まで取得したデータについては、セクション31の “ 年成論 ” で展開していますが、私の考えを支持する物的証拠としては不十分な点がいくつかありますので、それを補強するために引き続き調査を行っております。

 さて、冒頭で紹介した年成論の中で、二年成のシステムをもつ樹木でも、一年成の樹木と同程度の期間でドングリを結実できる物証として、コナラ属のアベマキの事例を紹介しました。ただ、このような事例は極めて稀であり、残念ながら他の二年成の樹種では未だ確認できておりません。
 ただ、ドングリとして結実しないまでも、本来の果実の成長過程から逸脱して、通常なら一年近くを要する幼果の形態(たぶん受精前の幼果形態)まで僅か数ヶ月で急成長するケースであれば、コナラ属やシイ属の多くの樹種で確認しています(図8-510-1参照)。

 今回は、マテバシイ属のマテバシイについても、果実が異常成長した個体を確認したので紹介します。最初に目撃したのは昨年の8月で、場所は西神中央公園 [ 所在地 ; 兵庫県神戸市 ] でした。6月に開花してから僅か2ヶ月程度で、果軸に着いた一部の幼果だけが、既に翌年の4〜5月頃に見られる形態にまで成長していました(図8-510-2参照)。但し、これらの異常成長した幼果は、今年の5月が過ぎてもそれ以上は成長せず、同じ果軸でも二年成のルールに従った幼果だけが無事に結実していました。

 
 それ以降も、引き続き異常成長した幼果に着目しながら多くのマテバシイを観察していたら、先日ポートアイランド [ 所在地 ; 兵庫県神戸市 ] にある街路樹からも見つかりました(図8-510-3参照)。これで、国産のブナ科の樹木で二年成のシステムを採用している3属(コナラ属、シイ属、マテバシイ属)の全てで、果実の異常成長という事象が同じように存在することが確認できました。これらのデータは、属種を問わず二年成の樹木が同じ挙動をしていることを示す重要な証拠になると考えています。