雑記506. 2023. 9.22
“ 殻斗三変化 ”
 兵庫県神戸市の港湾緑地南公園には、京阪神の緑地では目にする機会が少ないナラガシワやカシワが多数植栽されています。と言っても、十年前に初めて訪れた時(*)に比べて園内は大きく様変わりし、遊具施設や遊歩道を整備する過程で多様なドングリを結実する多くのナラガシワが伐採されてしまいました。
  * 雑記144を参照願います。
 そんなわけで、数年前までここを訪れる機会はめっきり少なくなっていたのですが、最近になって園内の整備対象区域外に植栽されていたカシワの中に、とても魅力的な形質をもつ個体(**)があることに気づいてからは、再び頻繁に足を運ぶようになりました。

 南公園のカシワの中で、これまでこのHPで紹介してきたものに、分裂した殻斗をもつドングリを結実する個体(**)や異常に長い花軸を着ける個体(**)がありましたが、他にもまだユニークな個体があります。その内の1体が、先日訪れた時にきれいな釣鐘型のドングリをたくさん落としていました(図8-506-2参照)。
  ** 雑記378、495を参照願います。
 樹下に厚く堆積した落葉がクッションになるので、堅果には目立ったキズが無く、細くて脆弱な長い首もきれいに残っていましたが、この個体のユニークなところは堅果ではなく、それを包む殻斗の形態にあります。

 カシワの殻斗の表面を覆う鱗片は、薄くて滑らかなものが一般的ですが、個体によっては鱗片が細かく縮れたものも少なからずあります。ところが、この個体が結実したドングリの殻斗には、一般的な滑らかな鱗片と少数派の縮れたもの、さらには縮れがより激しいものの3つのタイプが混在していたのです(図8-506-3参照)。因みに、採集した殻斗の鱗片には滑らかなものと縮れたものが半々ぐらいで、それらに混じってより激しく縮れたものが少しばかり見られました。

 以前に紹介した2体(**)に比べると、この個体の形質はそれほど奇異なものではないかもしれませんが、殻斗というものを考える上で、なかなか興味深い事象だと私は考えています。