雑記501. 2023. 8.15
“ 果軸だけで構成された枝 ”
 コナラ属の樹木には、通常の花期(春)以外にも花を咲かせる個体が少なからずあります。それらは、通常の花期が終了してから秋にかけて、一風変わった形態の花序を繰り返し咲かせます。

 私は、かれこれ十年以上に亘って、季節外れに開花した花序を丹念に観察してきました。その結果、それらの形態が樹種によって異なるのは勿論のこと、同じ樹種でも個体やその生育時期によって多様な姿を見せることに気づきました。そして、それらの観察結果を基に花序の形態を分類整理し、花軸というものがどのように誕生して現在の姿にまで進化を遂げたのか、一般論とは異なる独自の視点でセクション30にまとめてみました。その概要について簡単に述べると、果実を着けるために専用化された花軸というものは、我々が普段目にする新枝に直接立ち上がったのではなく、冬芽から1本の花軸が現れ、やがてそれが複数の花軸だけで構成された新枝へと変化し、そこに普通葉や冬芽が現れ、最後に雌雄の花序が分離整列して、今日我々が目にするような姿になったというものです。
 さて、セクション30では、コナラ属の樹木に限定して花序の進化過程を詳述しましたが、おそらく他の属種においても花軸が形成される過程はこれと大差ないものと考えています。なぜなら、スダジイやツブラジイのようなシイ属の樹木でも、季節外れに開花する個体に、コナラ属でしばしば目にする 果軸だけで構成された枝 が存在するからです(図8-501-1参照)。

 
 このように、属種間で共通のアイテムを見つけ出すことにより、私は花軸の進化の過程がブナ科の樹木に共通したものであることを示す客観的な証拠を収集し続けておりますが、マテバシイ属の樹木においてコナラ属やシイ属に見られる果軸だけで構成された枝を探し出すのは容易ではありませんでした。

 果軸だけで構成された枝は、シイ属なら季節外れに開花した花序にもれなく見られます。ですから、シイ属と同じぐらい季節外れに開花する個体が多いマテバシイ属なら簡単に見つかるだろうと思っていました。ところが予想に反して、ここ4〜5年の間に不定期を含めた季節外れに開花する個体をくまなく調査しても、現在に至るまでに僅か1体でしか見つかっていないのです。

 図8-501-2は、山田池公園 [ 所在地 : 大阪府枚方市 ] の個体で一昨年の9月に撮影したものです。図中の 「 2020年9月以降開花 」 の表示がある枝を見ると、冬芽から出現した1本の枝に、複数の果軸だけが立っています。但し、この年に見つけたのはこれが唯一でした。
 昨年の9月にこの個体を観察した時には、これに類似したものは見当たりませんでしたが、先日新たに1本が見つかりました(図8-501-3参照)。おそらく、昨年の10月以降に現れたものと思われます。この枝には、5本立った果軸のうちの1本に1つだけですがドングリが実っていました。以上、極めて事例は少ないのですが、想定していた通り、マテバシイ属にも果軸だけで構成された枝が存在することが確認できました。