雑記490. 2023. 1.20
“ 第3回 久米島ドングリ探検ツアー 後篇 ”
 最終日は早朝から生憎の雨模様で、小降りになるのを待って10時頃に宿泊していたホテルをチェックアウトしました。フライトの都合で15時には久米島を発つので、最後に初日と2日目の午前中に訪れただるま山をもう一度探索することにしました。

* オキナワウラジロガシの変形ドングリについては、前回の久米島ドングリ探検ツアーの記事(雑記245〜雑記250)を参照願います。
 初日、2日目と山道沿いにあるオキナワウラジロガシは一通り見て廻りましたが、山道の両サイドから奥に拡がる個体については手つかずのところが多かったので、当日はそれらの個体を中心に探索しました。

 
 その結果、2日目の午前中に探索した時と同様に、山道に対して垂直方向に分布する個体の多くは、豊作年にも関わらずドングリを全く落していませんでした。そして、この日初めて踏み入った場所でも、山道よりも低位置にある窪地周辺の個体(図8-490-2参照)や、少量の湧き水が流れる周囲の個体(図8-490-3参照)だけが、量の多少はあるもののドングリを落していました。

 さらに、これらの場所にはオキナワウラジロガシのものとは思えないような小さなドングリがたくさん落ちていました(図8-490-4参照)。堅果、殻斗ともに前日までに採集したものは、平均的なサイズか、それよりも大きなものばかりでしたが、この日はちょっと大きめのアカガシやツクバネガシぐらいの小さなドングリをたくさん採集することができました。因みに、雑記487で紹介した小さな殻斗の多くはここで採集したものです。


 だるま山での探索を開始して1時間半ぐらいが経つと、朝から降り続いていた雨がより一層激しさを増してきました。そのため、まだ調査していない領域を多分に残したまま、この日の探索を終了せざるを得なくなってしまいました。最終日はお世辞にも探索日和とは言えませんでしたが、初日、2日目は好天に恵まれ、大豊作であるがゆえに多様なドングリに接することができたので、今回の探検ツアーは大成功でした☆ また、飯田さんやKさん達といっしょに、ここ久米島でドングリ探索できる日が来るのを楽しみにしています♪


(補記)
 今回のツアーを通して、これまでに無い大きなドングリを数多く採集することができましたが、オキナワウラジロガシのドングリは何故このように巨大化したのでしょうか(注)
(注) オキナワウラジロガシのドングリは、最大級のものになると他の国産種のドングリとは比較にならないぐらい大きなものであることは確かですが、そういうドングリを結実する個体は同種の中でもごく僅かです。因みに、本土のクヌギやナラガシワにも、オキナワウラジロガシの平均的なサイズのドングリよりも大きなものを結実する個体は数多く見られます。
 この件については、数年前に某TV局で人気の動物番組の企画担当の方からも質問を受けたことがあります。その時は “ オキナワウラジロガシは主に水流によって植生域を拡張するので、水流によって大きく流されないように石や落下した枝葉等の障害物で停止しやすく、なおかつ停止した後に押し寄せる泥土によって埋没しにくいように巨大化したのかもしれない ” という主旨の回答を致しました。
 そのように答えたのは、自宅近隣の山に登った時に見たある光景がヒントになったからです。数年前、何日も降り続く長雨の最中に自宅近隣の山に登った時、澤と化した山道や急斜面を転がり落ちてくるたくさんのドングリを目撃しました。10月に入ったばかりで、その山はちょうど実りの季節をむかえており、落下したアベマキやコナラのドングリが澤を間断なく流れ落ちていました。その様子が面白くて山に登ることをしばし忘れて、転がり落ちていくドングリ達の様子をひたすら追っていたのですが、ほとんどのドングリは途中の石や落下した枝葉で止まることなく、水流に載って麓の方まで転がり落ちていきました。偶に障害物に引っかかって停止するドングリもありましたが、後から押し寄せてきた泥土によって、しばらくするとすっかり埋没してしまったのです。

 ドングリは池に落ちたリ、土に埋もれてしまうと発根できなくなるので、これらのドングリは植生域の拡張という種子本来の目的に寄与することはできませんが、もし仮にこれらのドングリのサイズがもう少し大きかったなら、下流に押し流されることなく、ちょっとした障害物で停止し、停止した後も泥土に埋没することはなかったのではないでしょうか。要するに、オキナワウラジロガシのドングリが水流を種子散布の主な担い手として活用できたのは、本土で私たちが目にするドングリよりも一回りサイズが大きかったからだということです。ただ、これはあくまで水流を輸送媒体にしているオキナワウラジロガシのドングリのメリットであって、巨大化したことの理由にはならないかもしれません。

 一般にドングリが大きくなると、内部にある種子の保水力が高まるので、多少乾燥した環境下でも発根に有利な構造であることは確かです。ただ、亜熱帯の高温多湿な環境下にあるオキナワウラジロガシにとって、それが原因でドングリが巨大化したとは到底考えられません。他にも、オキナワウラジロガシが分布している島々の土壌成分が巨大化を促進したことも考えられますが、その割に本土のスダジイの亜種であるイタジイは普通のサイズですから、これも可能性としては低いのではないでしょうか。いずれにせよ、巨大化した理由を解明するには、さらなる調査研究が必要だと思います。