雑記489. 2023. 1.19
“ 果軸に残された痕跡から... ”
 今回のツアーで、大量にオキナワウラジロガシの殻斗を採集したのは、その可愛らしい姿に魅せられたからですが、他にも殻斗について調べたいことがあったからです。それは、オキナワウラジロガシの花軸(果軸)に咲く花の数です。私は、ドングリの樹の果軸とそこに咲く花の数、さらには結実するドングリの数について以前から調査(*)しているので、このツアーは普段接する機会のないオキナワウラジロガシの果軸の実態を調査するまたとないチャンスでした。

 オキナワウラジロガシの果軸は、普通1〜3個のドングリが結実したものをよく見かけます(図8-489-1参照)。但し、4個以上のドングリが結実した果軸には、これまで一度もお目にかかったことがありません。実際のところ、オキナワウラジロガシの花軸には3個しか花が咲かないのか、あるいはそれ以上の花が咲くけれども、結実するのは3個までなのでしょうか。
* セクション30を参照願います。

 因みに、本土の公園に植栽されたウラジロガシから採取した果軸の例を図8-489-2に示します。上段の(a)はウラジロガシの典型的な果軸です。この果軸には7個の幼果がついていますが、だいたい1本の花軸に咲く花は3〜8個で、多いものは6個前後のドングリが結実します。
 一方、下段の(b)はウラジロガシの中でも大量の多果を結実する特殊な個体から採集したものです。典型的な果軸よりもやや長めで、この果軸には2個の多果を含む10個の幼果がついていますが、この個体ではだいたい1本の花軸に咲く花は8〜13個で、多いものは10個前後のドングリが結実します。

 一方、オキナワウラジロガシは密林の中で大きく成長したものがほとんどなので、果軸のついた枝葉は樹上のかなり高所にあります。ですから、本土の公園や緑地に植栽されたドングリの樹のように、容易に果軸を採取して観察することは非常に困難です。そこで、落下した果軸のついた殻斗に残された花の痕跡から、花軸に咲く花の数を推測することにしました。

 ということで、今回採集した殻斗の中で果軸がついた64個のものを調べた結果、46本の果軸に3個、4本の果軸に4個、そして13本の果軸に5個(図8-489-3参照)の花の痕跡が認められました。母数は少ないですが、1本の花軸にだいたい1〜5個の花を咲かせる個体が普通だと考えられます。

 但し、本土のウラジロガシと同様に、オキナワウラジロガシにも特殊な個体があって、64本の果軸の中でたった1個だけでしたが、9個の花の痕跡があるものが見つかりました(図8-489-4参照)。この果軸は、2個の花が結実しましたが、残りの7個は花か幼果の段階で成長できずに脱落したものと思われます。長さは27mmで、典型的な果軸に比べて少しばかり長めでしたが、この長さだとオキナワウラジロガシのドングリは大きいので、仮に脱落した7個の花の中で結実できたものがあったとしても、せいぜい2〜3個といったところでしょう。

 以上の結果から、オキナワウラジロガシの花軸には普通1〜5個の花が咲くものと考えられます。さらに、ドングリの大きさや果軸の長さにも依りますが、1本の果軸に結実するドングリの数は、多くても4〜5個までではないかと考えられます。