雑記458. 2022. 5.30
“ 10年で倍増 ”
コナラ属の雌花の花柱は3本が基本ですが、その数は同じ個体の中では勿論の事、個体間でもかなりの差があり、平均的な花柱の数が、3本よりもむしろ4乃至5本に近いものも少なからずあります。
花柱は、子房と柱頭の間にある花粉を授受するための媒体ですが、ちっぽけで取るに足りない見かけによらず、個々のドングリの成り立ちを考える上で様々な情報を提供してくれる非常に重要な構造物です。そんなわけで、私は出来る限り多くの個体について花柱の構造の実態について調査し、10年前にその結果をセクション14 [ ドングリの花柱 ] にまとめました。
そして、それ以後も主に花柱の数を中心に調査を続けてきた結果、10年前にはシラカシの幼果で見つけた8本(図8-458-1参照)が最多でしたが、多果や両性形態の花を大量に発現する個体から、それを大幅に上回るものが次々と見つかりました。
さて、多果や両性形態の花を発現する樹種と言えば、国産のコナラ属ではシラカシをおいて他にないでしょう。実際、同種では多果を大量に発現する個体ほど花柱の数に大きなバラツキがあって、7〜8本の花柱をもつ雌花(幼果)も決して珍しくはありません。ただ、シラカシでは現在のところ、花柱の数は多くても10本しか確認できていません(図8-458-2参照)。
一方、シラカシほど多果は発現しませんが、両性形態の花を大量に発現するものとして、季節外れに開花するコナラやナラガシワ(*)があります。実はこれらの個体の中に、シラカシよりもはるかに多くの花柱をもつ雌花(幼果)が多数存在したのです。
* セクショ22を参照願います。
図8-458-3、図8-458-4は、季節外れに開花するコナラの幼果の例です。このように、8本ぐらいの花柱はごく普通で、10〜12本のもの(図8-458-5、図8-458-6参照)もそれほど珍しくはありません。そして、現在までに最多で16本の花柱をもつ幼果を確認しています(図8-458-7参照)。但し、これらの数はあくまで雌花(幼果)の外観をもとにカウントしたものなので、子房の中にある子室の数との相関については不明です(**)。
** 花柱は隣接するもの同士が合着して1本になったり、1本が複数に分裂することがあるので、見た目の花柱の数と子房の中にある子室の数は必ずしも一致しません。開花してから2ヶ月ぐらいが経過すると、子房の内部の構造(子室、胚珠)がはっきりと観察できるようになりますが、花柱が8本を超えるものは例外なく開花から1ヶ月足らずで枯死してしまうため、残念ながら現時点でそれらの内部構造を観察するには至っていません。
(付記)
前段で紹介した雌花(幼果)は、全て1つの殻斗の元になる器官に1つの雌花が咲いた単果であり、複数の雌花が咲いた多果のものは一切含まれていません。多果の中には、雌花同士が合着して一体化し、外観からは単果と見分けがつきにくいものもありますが、異なる雌花が合着しても、それらの花柱が一体化することはありません(***)ので、花柱の構造を見れば単果と多果の区別は可能です。
図8-458-8(シラカシ)と図8-458-9(コナラ)は、2つの雌花が合着した2果の幼果の例ですが、それぞれの雌花の花柱がはっきりと区別できる様子が見て取れます。
*** 現在のところ、この傾向に反する事例は確認できていません。