雑記045. 2011. 8. 5
“ 謎の虫は、全て同種のタマバチなの? ”
 7月下旬に、ウバメガシの堅果に形成された虫瘤(*)から待望の成虫が現れました(図8-45-1参照)。最初の1匹が出現してから、10日間ほど様子を見続けてきましたが、最終的に41個の虫室から羽化したのは僅か2匹だけでした羽化率:5%未満)。
* セクション9-1を参照願います。

 成虫の姿を見る限り、これまでにクヌギの堅果やコナラの殻斗(果軸)に形成された虫瘤から出て来たタマバチと姿形が酷似していました。成虫が現れなかった残りの虫瘤を解体してみると、昨年ウバメガシの堅果に形成された虫瘤から取り出した独特の姿形をした幼虫(図8-45-2参照)は2匹だけで、他は全てクヌギの堅果に形成された虫瘤で見たのと同じ姿形の幼虫が入っていました(図8-45-3参照)。

 たぶん、ウバメガシの堅果に形成された虫瘤の中には、クヌギの堅果やコナラの殻斗(果軸)に形成された虫瘤で見たのと同じ姿形の幼虫(図8-45-3)が大半を占めており、それらが選択的に羽化した結果、同じ姿形をした成虫が出現したのだと思います。
 文献を読むと、
タマバチの仲間には、同じ種類でも幼虫や虫瘤の形態が全く異なるものが存在するとありますので、もしかするとドングリを専門に寄生するタマバチは、この類のものである可能性が考えられます。

 最後に、このタマバチの成虫が寄生する時期について、産卵対象がコナラの殻斗(果軸)の場合とクヌギやウバメガシの堅果の場合に分けて考察してみます。
コナラの殻斗(果軸)に寄生するタマバチの場合
 このタマバチは、5月の下旬頃に羽化します。羽化の時期と虫瘤に見られるドングリ(主に殻斗)の形態から、産卵するのはコナラが開花する4月から8月頃までの間と思われます。
クヌギやウバメガシの堅果に寄生するタマバチの場合
 このタマバチは、7月の下旬頃に羽化します。クヌギやウバメガシのドングリは2年成なので、その頃には前年に受粉した幼果は、既に大きく成長しています(図8-45-4〜図8-45-7参照)。ドングリに寄生するタマバチは、殻斗の上から果皮の内側(図中の赤丸部分)を狙って産卵管を差し込むことになりますが、仮にタマバチの産卵管が体長と同じぐらいの長さ(=2mm前後)だとしても、この時期の幼果に対して、果皮の内側まで産卵管を差し込むのは極めて難しいと思われます。

 一方、今年受粉したばかりの幼果は、図8-45-8に示す様にとても小さく、翌年の春までこのサイズのままなので、その間であればタマバチはいつでも産卵出来ます。但し、羽化した直後に産卵したとしても、来年の春までは孵化出来ないので、半年以上の長期間を卵の状態で過ごさなければならなくなります。1年成のアラカシの堅果にも同じような虫瘤
が形成されていることから、タマバチは越冬して春を待ってから産卵するのでしょうか?


(追記)
 “ 明石・神戸の虫 ときどきプランクトン ” のHPに、アラカシの堅果に産卵しているタマバチの写真が掲載されているのを見つけました。私は、ドングリが雌花か、あるいは小さな幼果の時に、このタマバチが産卵すると予想していたのですが、その写真を見るとドングリが成熟する1ヶ月半〜2ヶ月前(ドングリの成長がほぼ停止した状態)であることが明らかになりました。

 このタマバチの産卵管は、長さが僅か1mm程度しかありませんが、細くても十分な強度が備わっているので、殻斗の上からは無理だとしても、成熟間近の薄くなった果皮(〜0.5mm程度)の上からであれば、十分産卵が可能であることを冒頭のHPの管理人様に教えて頂きました。
“ 明石・神戸の虫 ときどきプランクトン ”  : http://mushi-akashi.cocolog-nifty.com/blog/2011/09/post-cb8e.html