雑記432. 2021. 7. 1
“ 雌花序は合着しても、殻斗は... ”
 雑記431で、マテバシイの合着した2つの雌花序から出現した各々の殻斗が合着した事例を紹介しましたが、同じように雌花序が合着してもそれぞれの殻斗が合着しない事例もありました。図8-432-1はその一例で、殻斗の元になる器官に2つの雌花と3つの雌花が咲いた2つの雌花序が合着したものです。そして、この状態からおよそ一年が経過した幼果が図8-432-2です。

 
 一見すると、2つの雌花序から出現した殻斗は合着しているように見えますが、実はそれぞれの殻斗が成長して、両者の間を埋めつくすように密着しているからそのように見えるだけです。因みに、図8-432-3は図8-432-2に至るまでの途中経過を撮影したものですが、これを見ればそれぞれの殻斗が合着していないことは明らかです。

 実はこれ以外にも、殻斗の元になる器官に2つの雌花が咲いた雌花序と3つの雌花が咲いた雌花序が合着したものや、1つの雌花が咲いた雌花序と2つの雌花が咲いた雌花序が合着したものについて成長過程をトレースしましたが、いずれの殻斗も合着しませんでした。


 雑記431で紹介した異なる殻斗が合着した事例では、2つの雌花序に咲いた雌花同士が合着したところを中心に両者の殻斗が合着していたことから、それぞれの雌花序に咲いた雌花同士の距離が、殻斗の合着可否に関係しているのかもしれません。そこで、図8-432-1の雌花序における雌花のレイアウトを確認してみました。

 図8-432-4は、図8-432-1の雌花序を拡大し、各々の雌花を識別するためにA〜Eの記号を付したものです。この中で、両者の雌花序に咲いた雌花が最も近接しているのはAとEです。それぞれの雌花序に咲いた雌花同士の距離(雌花序1のA-B間、雌花序2のC-E間、C-D間)に比べて、A-E間は若干離れているように見えますが、その距離は雌花序2のD-E間と比べるとほぼ同じぐらいです。また、この個体の他の雌花序(図8-432-5参照)を見ると、A-E間の距離が取り立てて長いわけではないことは一目瞭然です。これらの点から、異なる雌花序の近接した雌花同士に目視で確認できる間隙がある場合、その距離が殻斗同士の合着可否を決定しているわけではないと考えられます。

 
 以上の観察結果から、異なる雌花序の近接した雌花同士が合着しているか、あるいは合着しないまでも密着したような状態(*)にあると、両者の殻斗は合着すること、
そして異なる雌花序の近接した雌花同士に目視で確認できる間隙があると、両者の殻斗は合着しないことが判りました。

 最後に、一連の観察結果とマテバシイ属の花に対する一般的な解釈との整合性について検証してみたところ、そこに大きな矛盾があることに気づきました。それは、マテバシイ属の花は近接した雌花同士が分散(間隙がある)したものが一般的ですから、上述の観察結果から判断すると、マテバシイ属の殻斗は合着したように見えないものが大半を占めるはずなのに、私たちが目にする殻斗は悉く合着したように見えるものばかりだからです。

 これが意味することは非常に重要で、もし私の観察結果が正しければ、半世紀以上前から現在に至るまで信じられてきた、
マテバシイ属の花は、複数の雌花序が集まって構成されたものであるという解釈は間違っていることになります
 私は、コナラ属と同様に、マテバシイ属の雌花序も花軸にある殻斗の元になる器官に1つ乃至複数の雌花が咲いたものであることを示すデータ(**)をこのHPで繰り返し紹介してきましたが、それらの中でも今回取得したデータはその決定的な証拠になるものと考えています。但し、現段階ではサンプル数が十分ではないので、これからも合着した雌花序を探し出して、観察結果の精度を高めていくつもりです。
  * 雑記397に、2つの雌花序の雌花同士は合着していませんが、密着するぐらい接近していたと思われるドングリの例があります。
** 詳細は、セクション25の@を参照願います。