雑記428. 2021. 6. 4
“ ランダムに咲いています ”
ブナ科の花軸に咲く雌花の基部には、殻斗の元になる器官が存在しますが、私は雄花の下にも雌花と同じ基部(殻斗の元になる器官)が存在すると考えています。これは、殻斗の元になる器官が、そこから出現するものによって最終的な形態が異なることと、コナラ属で稀に雄花と雌花がランダムに併存する花軸が存在することから導き出した推論です(*)。
花軸上に雌雄の花が併存する姿なら、マテバシイ属やシイ属ではごく普通に見られますが、それらは軸上にランダムに咲いているわけではありません。シイ属(スダジイ、ツブラジイ)の花軸を例に挙げると、軸の先端から途中まで雄花が咲き、その下方に雌花(両性花含む)が咲くような構造になっています。多くは、先端付近にだけ雄花が咲きます(図8-428-1参照)が、中には軸の根元付近まで雄花によって占有されたものもあります(図8-428-2参照)。
* 雑記426を参照願います。
いずれにせよ、雄花と雌花が咲く領域が明確に分かれているので、これらの属種の花軸には雌雄の花に共通の基部ではなく、それぞれの花軸の領域に対応した異なる基部が存在する可能性も否めません。ただ、花軸の基本的な構造はコナラ属と同じなので、マテバシイ属やシイ属にも雌雄の花がランダムに咲いた花軸が必ず存在するはずです。
そこで、コナラ属以外の属種で、これまで雌雄の花がランダムに併存する花軸を探索してきた結果、西神中央公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] のスダジイ(**)で雌雄の花の配列が普通の花軸とは異なるものが3つ見つかりました。
** この個体は、以前からしばしば多果を大量に発現してきたものです。
一つは、先端から雌花、雄花、雌花の順に並んだ雌花軸です(図8-428-3参照)。そしてもう一つは、中央付近にポツンと1つだけ雄花が咲いた雌花軸です(図8-428-4参照)。パッと見は雄花でも、内側に雌蕊がある両性花ということもあるので入念に構造をチェックしましたが、雌蕊の存在は認められませんでした。
最後の一つは、単果以外に多果や両性形態の花が混在した雌花軸です(図8-428-5参照)。1つ1つの花を入念にチェックしたところ、雌花や両性花といっしょに複数の雄花の存在も認められました。
前二者は、花序形態が普通の花軸とは異なるものの、軸上に雌雄の花がランダムに存在することを示すには十分とは言えないかもしれませんが、最後の一つは文句無しにランダムと言えるでしょう。マテバシイ属では未だ確認できていませんが、少なくともシイ属については、コナラ属と同様に、雌雄の花に共通の基部が存在すると考えて間違いないのではないでしょうか。