雑記426. 2021. 5.24
“ 咲いたのは確かに雄花です ”
花軸にある殻斗の元になる器官に雌花が咲いて、それが結実するとドングリになります。殻斗の元になる器官は、そこに雌花が出現することで最終的に殻斗を形成しますが、雌花以外だと別の物に変化します。例えば、そこに花軸が出現した場合、はじめは小さな殻斗の形をしていますが、やがて苞の集まりへと姿を変え、最終的にそれらは剥落して跡形もなく消失します(*)。
* 雑記303、雑記315を参照願います。
私はこの事象を目撃してから、複数の雄蕊とそれらを囲む苞の集まりによって構成されている雄花軸の雄花も、その基部には雌花と同じ殻斗の元になる器官が存在し、そこに雄花が咲くことで、殻斗ではなく苞の集まりへと変化しているのではないかと考えるようになりました(**)。そして、その事を確信したのが、雄花と雌花がランダムに併存する花軸の存在でした(図8-426-1参照)。
** セクション26-4を参照願います。
これまで目撃してきた同様の花軸にある雄花は、図8-426-1のように、どれもたくさんの雄蕊が苞に包まれた構造をしていましたが、こういう雄花は小さな雌蕊が雄蕊に埋もれた両性花(両性形態の花)であることがよくあります。
図8-426-2はナラガシワの花序で、一見すると雄花のようですが、真中あたりに小さな雌蕊があるのが判ります。この写真は、あくまで雄蕊に埋もれた小さな雌蕊を強調するための事例として取り上げたものですが、実際は雌蕊が雄蕊に完全に埋没していて、雄蕊の先端の葯を取り除かないと雌蕊の存在が確認できない場合の方が多いのです。
もしも、図8-426-1の花軸にある雄花が純粋な雄花でなく両性花であれば、雌花と雄花の基部には共通の殻斗の元になる器官が存在するという考え方は成立しなくなりますので、雄花のように見えるものが純粋な雄花であることをきっちりと確かめておく必要があります。
そんな矢先に、先日訪れた西神中央公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] で、雌花や両性花といっしょに複数の雄花が咲いたシラカシの花軸が見つかりました(図8-426-3参照)。中には雄蕊が2本しかないシンプルな構造のもの(図中左側)もありました。それらの雄花について、雄蕊の先端の葯を取り除いてその内側を観察したところ、雌蕊の存在は認められませんでした。
さらに、同園の近くにある高塚山緑地 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] でも、雄花と雌花が併存したアラカシの花軸が見つかりました(図8-462-4参照)。この花軸は同種にしてはやや長めで、先端付近に2つの雄花が咲いていました。いずれも、雄蕊が1本しかない最もシンプルな構造でした。こちらも雄蕊の先端の葯を取り除いて内側を観察しましたが、前述のシラカシと同様に、雌蕊の存在は認められませんでした。
そんなわけで、今回雌花と雄花が併存した花軸において、雄花の構造を入念にチェックした結果、それらは両性花ではなく、純粋な雄花であることが確認できました。
(補記)
シイ属やマテバシイ属の花軸には雄花と雌花(両性花)が併存していますが、雄花は軸の先端付近にあり、その下方に雌花(両性花)があります(***)。前段で紹介したコナラ属の花軸のように、両者が花軸の中でランダムに存在しているわけではないので、これらの花軸からは、必ずしも雄花と雌花に共通な基部が存在するとは言えないと思います。
*** 雑記125を参照願います。