雑記423. 2021. 4.29
“ この形のドングリが目印です ”
 5年前に、西神中央公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] にあるアベマキで、3つの雌花が咲いた花軸(*)を見つけました(図8-423-1参照)。アベマキの花軸は10mmに満たない短かなもので、そこに1つか、せいぜい2つの雌花を咲かせるのが普通ですから、3つの雌花が咲いたものはとても珍しいと思います。ブナ科の植物が誕生してから、花軸(果軸)は時間と共に徐々に縮小する傾向にある(**)と考えている私にとって、これは非常に興味深い事象です。
  * 雑記209を参照願います。
** セクション30-2を参照願います。

 この花軸を目撃してから、他の個体でも同じ形態のものが存在するか確かめるために、京阪神に広く分布するアベマキの枝を片っ端から手に取って調べてきましたが、同じような花軸(果軸)にはなかなか出会えませんでした。
 そこで、三年前から探索の確度を高めるために、この花軸に結実したドングリに見られる特異な形態に着目することにしました。そのドングリとは、図8-423-2のような形をしたものです。

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 この図は、雑記275の末尾に掲載したものですが、花軸に咲いた3つの雌花が全て結実すると、隣接する殻斗同士が激しく干渉し、そこに包含された堅果が真横から圧し潰されたような形になるのです。普通の花軸が枝に複数本近接することによって、枝の特定の箇所にドングリが密集することがありますが、それでもこのように殻斗が変形することはまずありません。

 ですから、こういう形をしたドングリが樹下に落ちている個体を中心に探索すれば、3つの雌花を咲かせた花軸に出会える可能性が高くなると考えました。そして、結果的にこの手法が功を奏し、あらたに2体のアベマキでこの形態の花軸(果軸)を見つけることができました。

 
 2体のアベマキのうち、図8-423-3と図8-423-4の花軸(果軸)は、服部緑地 [ 所在地 : 大阪府豊中市 ] で見つけた個体で撮影したものです。あらたに見つけた2体の花軸(果軸)を観察した結果、3つの雌花を咲かせたものは1つや2つではなく、各々の個体に数多く見られました。さらに、
2つの雌花が咲いた花軸(果軸)でも、普通の個体に比べてやや長めのものが散見されました(図8-423-5参照)。これらの状況から、3つの雌花を咲かせた花軸(果軸)は偶然に出現したものではなく、特定の個体で繰り返し発現するものと思われます。