雑記418. 2020.12. 4
“ なぜツルツルしているの? ”
 今年の7月、某TV局の自然番組を制作されているTさんから以下の問い合わせがありました。

『 コナラやミズナラのドングリは、手で触るととてもツルツルしています。中には磨くとニスを塗ったようにすごくピカピカになるものもあるのですが、なぜドングリはそんなにツルツルしているのでしょうか?』

 Tさんは、独自にドングリを研究している機関や本で調べたそうですが、思うような回答は得られなかったとの事。まあ、こういうことを真面目に調べているのは私のような趣味人ぐらいで、公的研究機関がこんな事をやっていたら、科研費がもらえなくなっちゃうのではないでしょうか?

 ということで、早速Tさんの質問に対して、私なりに以下の回答を致しました。
『 ドングリは果実の仲間です。果実というのは雌花の子房が成長したものですが、ドングリは子房とそれを被覆する花床(花被含む)がいっしょに成長したものなので偽果です。ドングリがツルツルしているのは、おそらくこの花床に由来する組織が子房をコーティングしているからだと思います。
 電子顕微鏡で堅果の殻(果皮)の断面
(*)を見ると、ツルツルしている花床に由来する部分が非常に緻密な組織で構成されていることが判ります。もし仮に、花床に由来する組織が子房に由来する組織(花床の内側に存在する部分)のように粗い繊維質なら、どんなに磨いてもドングリはツルツルにならないと思います。 』
  * 雑記135の図8-135-5を参照願います。
 たぶん、この回答で間違いないと思います。ただ、子房を被覆している花床に由来する組織(厚みは、僅か10〜20ミクロン)がなかったら、ドングリの表面がいったいどんなふうになるのか、問い合わせをいただいた時点で、Tさんに具体的な例をお見せすることができませんでした(**)
** 雑記Dで、花床(花被含む)に由来する組織が欠損したスダジイのドングリを紹介しましたが、このドングリは殻斗と堅果の表面が癒着したことによって強制的に欠損したものなので、本来の子房に由来する組織の表面状態ではありません。
 その後、この案件を頭の片隅において探索を続けていたところ、先月深田公園 [ 所在地 : 兵庫県三田市 ] で採集したクヌギのドングリの中に、なにかの加減でうまいぐあいに花床に由来する組織だけが自然剥離したものが見つかりました(図8-418-2参照)。

 
 この堅果の中央付近に、表面をコーティングしている組織が浮き上がって破れた部分がありますが、ここだけ全く光沢がありませんよね。実はこの部分が子房に由来する組織の表面状態を表しているんです。

 Tさんからいただいた質問のおかげで、今回は私も大変勉強になりました。私たちを魅了するツルッツルのドングリは、花床(花被含む)に由来する組織無くしてはありえないことが、これでTさんにも納得していただけることでしょう。