雑記415. 2020.11.21
“ ドングリに寄生しているわけではありません ”
 昨年の11月5日、兵庫県神戸市の高塚山緑地で、コナラ(図8-415-1参照)とウバメガシ(図8-415-2参照)の成熟したドングリに、ハチの一種と思われる昆虫が産卵管を立てているのを目撃しました。ハチの仲間でドングリ(堅果)に産卵するものと言えば、このHPで度々紹介してきたタマバチがいますが、このハチはドングリに寄生するタマバチより明らかにサイズが大きく、しかもお尻の先には長い産卵管をもっていました


 
 そして、それから1年が経過した今年の11月8日、同地で再びこの昆虫に遭遇しました(図8-415-3参照)。

 今回はウバメガシのドングリだけでしたが、前回は産卵管をドングリの表面に充がっていただけなのに、今回はドングリの中に深く差し込んだり、引き抜いたりという動作を10分ぐらい繰り返していました(図8-415-4参照)。作業を完遂するまで撮影を続けるつもりでしたが、夢中になって接写し過ぎたせいでカメラのレンズが昆虫にぶつかってしまい、残念ながら途中で逃げられてしまいました。


 一連の状況から、タマバチ以外にもドングリに産卵するハチの仲間が存在する可能性が考えられます。ただ、ドングリではなくドングリに寄生したタマバチに寄生するハチの仲間(*)がいる等、昆虫の世界はなかなか一筋縄ではいきませんので、全くの素人である私がこれ以上考察することは非常に困難です。
* 雑記064、124を参照願います。
 そこで、いつもお世話になっているブログ [ 明石・神戸の虫 ときどきプランクトン ] (**)の管理人様に、このハチの詳細についてお話を伺うことにしました。以下に、管理人様から教えていただいた内容を抜粋して紹介します。
** https://mushi-akashi2.blogspot.com/
1. 翅脈からコマユバチ科(すべて寄生性)の一種と思われる。
2. ハチのサイズから、タマバチは小さ過ぎるので、コナラシギゾウムシ等を寄主としているのではないかと推測する。
3. 産卵管の太さのわりに堅果の穴が大きく、周囲の果皮が変色しているので、ゾウムシ等が開けた穴を利用しているのではないかと思われる(図8-415-5参照)。

との事でした。毎度のことながら、管理人様には広範囲の情報源を駆使して懇切丁寧に解説していただき、本当に感謝しております。ここであらためて御礼申し上げます。

 その後、管理人様がさらに詳しく調べて下さった結果、日本昆虫学会の Japanese Journal of Entomology に掲載された論文Triaspis curculiovorus sp.n. ( Hymenoptera Braconidae ) fron Japan, Parasitizing Acorn Weevils ( by Jeno Papa and Kaoru Maeto ) 』 に、ドングリのゾウムシに寄生するコマユバチ科のハチに関する報告があるとの事で、電子ファイルを送って下さいました。
 この論文には、Triaspis curculiovorus と命名されたコマユバチ科の新種が、ミズナラ [ 学名 : Quercus mongolica var.grosseserrata ] やホワイトオーク [ 学名 : Quercus alba ] のドングリに産卵したクリシギゾウムシ [ 学名 : Curculio sikkimensis ] やクロシギゾウムシ [ 学名 : Curculio distinguendus ] 等のゾウムシ類に寄生することが報告されていました。私が目撃したコマユバチ科の一種と全く同じものかどうかは私には判断できませんが、ネットに掲載されたTriaspis curculiovorus の写真(***)を見る限り、両者はとてもよく似ていました。あと、分布は北海道と記載されていましたが、発見されたのがたまたま北海道というだけで、おそらく国産のドングリに寄生するゾウムシがいるところに、このハチの仲間は広く分布しているものと思われます。
*** https://www.naro.affrc.go.jp/org/niaes/type/dbhymenoptera/triaspis_curculiovorus.html

 最後になりますが、この論文を読み終えて執筆者について調べたところ、『 寄生バチと狩りバチの不思議な世界(一色出版 2020年刊 ) 』 という本を編集されていることが判りました。オンラインで試し読みすると、Triaspis curculiovorus のことも記されており、産卵直後のゾウムシの卵に卵を産みつけることや、卵を産みつけられてドングリから出てきたゾウムシの幼虫は健全な幼虫と同じように土中で越冬するけれども、翌年羽化するのはコマユバチだと書かれていました。私もこの本を買って、寄生バチについて少し勉強してみることにします。