雑記394. 2020. 8.21
“ 今年もルール違反が続出! ”
 昨年、摂津伊丹廃寺跡 [ 所在地 : 兵庫県伊丹市 ] にあるアベマキで、4月に咲いたばかりなのにその年の秋に結実せんばかりの姿にまで成長を遂げた複数の幼果を見つけました(*)
 アベマキは2年成なので、春に咲いた雌花は翌年の秋に結実するのが当たり前ですから、このシチュエーションには本当に驚かされました。最終的にこれらの幼果が結実することはありませんでしたが、最も大きく成長した幼果の形態から推察すると、この個体で普通に成長したものに比べて、結実するまでのタイムラグは僅か1.5ヶ月弱しかないことが明らかになりました。
  * 雑記354、365を参照願います。

 さて、今年もこのアベマキでは4月に咲いた全体の3割強の雌花が、2年成のルールを無視して異常成長していました(図8-394-1参照)。異常成長した幼果のサイズには大小ありましたが、昨年目撃したような大きなものは見当たりませんでした。

 
 また、昨年と同様にこの個体の周辺にある2体のアベマキでも、僅かながら異常成長した幼果が認められました(図8-394-2参照)。
因みに、2年成の幼果の異常成長は、樹木の生態がよく似たクヌギではこれまで一度も目にしたことがありませんが、アベマキに関しては同地の複数の個体だけでなく、西神中央公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] にある個体でも何体か目撃したことがあります。ですから、もしかするとこれはアベマキに特有の現象なのかもしれません。


 一般に、ブナ目の植物は子房の構造が未熟なので、受粉から受精に至るまでに数ヶ月〜1年もの長い期間を要すると言われていますが、私は子房の構造が未熟であるという理由だけで受精に半年以上もの期間を要するという考え方には賛同できません。なぜなら、冒頭で紹介した異常成長したアベマキの幼果の例もありますが、季節外れの11〜12月頃に開花したマテバシイの雌花でも、その年の6月頃に咲いた普通の雌花とほぼ同時期(翌年の9月頃)に結実することを、これまで幾度となく目撃してきたからです。仮に、構造的なもので受精までの期間が律速されているのであれば、このような現象は頻繁に起こり得ないでしょう。

 ということで、少なくともブナ科の植物における子房の構造に起因した受精に要する期間はせいぜい2〜3ヶ月程度であり、現実に半年〜1年もの長期間を要しているのは、2年成というシステム
(**)を維持するために、その種が受精に至るまでの期間を敢えて遅らせているからではないでしょうか。さらに、年成というものはその種に固有の性質ではなくもっと流動的なものであって、受精するまでの時間を遅延させているファクターとそれを解除方法が明らかになれば、2年成の樹種を1年成に転換できるのではないかと私は考えています。
** 私が考えている2年成のメリットについては、雑記352を参照願います。