雑記392. 2020. 8. 1
“ シャクトリムシみたいです〜♪ ”

 ドングリの花は、花軸にある殻斗の元になる器官に咲きます(図8-392-1参照)。同じ花軸にある殻斗の元になる器官でも、それらのサイズには大きなバラツキがありますが、標準的なサイズよりも極端に小さな殻斗の元になる器官に咲いた雌花は、開花してから1〜2ヶ月の内に枯死します。図8-392-2にその例を示します。
 
 この図の矢印で示した2つの幼果が、極端に小さな殻斗の元になる器官に標準的なサイズの雌花(*)が咲いたものです。開花してからおよそ一月後に撮影したものですが、下方の幼果は既に枯死しています。
* 雌花が標準的なサイズであることは、他の幼果の花柱の大きさと比較して同等であるのを見れば明らかです。

 このように、殻斗の元になる器官が標準的なサイズのものよりも極端に小さな場合は、そこに咲く雌花のサイズの大小に関わらず枯死しますが、標準的なサイズの殻斗の元になる器官でも、そこに咲く雌花のサイズが極端に小さな場合については、同様に枯死を免れることができません。ただ、後者の場合は枯死に至るまでに、しばしば奇妙な形状の幼果を形成することがあります。
 以前、雑記261で紹介したアラカシの幼果もそうですが、一般にアラカシよりも殻斗のリングの数が多いシラカシでは、より細長い幼果がしばしば見られます。

 図8-392-3はシラカシに見られる典型的な細長い幼果です。この幼果の花柱を見ると、同じ果軸にある他の幼果に比べてやや小さめであることから、標準的な殻斗の元になる器官(**)に標準的なサイズよりもやや小さな雌花が咲いた雌花序が成長したものと思われます。長さが7〜8mmぐらいの小さな幼果ですが、まるでコケシのような形をしています。この写真は、この個体が開花してからおよそ2ヶ月後に撮影したものですが、それから数日後に見たら、この幼果は果軸から脱落していました。

 図8-392-3のような細長い幼果は、シラカシではそれほど珍しいものではありませんが、図8-392-4のようなスマートなものになるとちょっと珍しいかもしれません。花柱のサイズを見ると、同じ果軸にある他の幼果に比べてかなり小さいことから、標準的な殻斗の元になる器官(**)に標準的なサイズよりも極端に小さな雌花が咲いた雌花序が成長したものと思われます。長さは10mmぐらいですが、こちらはコケシというよりも、まるで腹脚で枝に止まるシャクトリムシのようです。この幼果も同様に、この写真を撮影してから数日後には果軸から姿を消していました。
** 標準的なサイズの幼果に比べて、細長い幼果の殻斗の元になる器官の方が小さく見えますが、これは殻斗の元になる器官に咲いた雌花の成長状態によって違って見えるだけです。図8-392-4(下段)の細長い幼果の殻斗の元になる器官のサイズと、そのすぐ下にあった幼果が脱落した果軸の痕跡を見れば、両者のサイズに顕著な違いが認められないことからも明らかです。