雑記389. 2020. 7. 4
“ 遅咲きのマテバシイ ”
 ドングリの樹の花期は種類や分布域によって異なりますが、同じ種類でも個体によってかなりの幅があります。分布域を京阪神に限定すると、春の花期が最も長いのはアラカシではないでしょうか。早いものだと3月下旬頃、遅いものになると5月末〜6月頭頃にようやく開花します。

 花期の長短については、特殊な開花現象を有する個体
(*)を含めると、アラカシよりもはるかに長いものがあります。ただ、それらの多くは同じ種類でも花期によって花序の形態が異なることに加え、通常の花期以外に開花したものが結実することはまずありません。そんな中で、唯一花期によって花序の形態が変わらず、いつ咲いても実を結ぶことできる例外的な樹種はマテバシイだけです。
* セクション22を参照願います。

 マテバシイの通常の花期は5月中旬〜6月中旬頃ですが、9月中旬〜12月中旬にかけて季節外れに開花する個体を含めると、一年の内のちょうど半分の月が花期になります。これだけでも驚きですが、もし7月や8月に開花する個体が見つかれば、5月〜12月までの約8ヶ月の間 (一年のおよそ2/3に相当)、毎月どこかでマテバシイは花を咲かせていることになるのです。これまで、7〜8月に開花するマテバシイについて調べてきましたが、7月に入って開花のピークを迎える個体にはなかなか巡りあえませんでした。せいぜい遅咲きの個体でも6月の半ば過ぎが開花のピークで、下旬になると花はことごとく枯れ落ちていました。

 ところが、昨年の7月5日に、高塚山緑地 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] で開花して間もないマテバシイを見つけました(図8-389-2参照)。これは、偶然この時期に開花したものかもしれないので、今年もこの個体をマークしてきたところ、7月2日に開花しているのを確認しました(図8-389-4参照)。

 
 7月に開花する個体が見つかったことで、個体差を含めるとマテバシイは一年の半分以上の月が花期ということになりました。7月に開花する個体は、たぶん5〜6月に開花する通常の花期の中で、多少遅咲きのものだと思われます。ですから、探せば他にも類似の個体が見つかる可能性は十分にありますが、8月に開花する個体を探し出すのはそれよりもかなりハードルが高いかもしれません。
 なぜなら、マテバシイで8月に開花する個体があるとすれば、それは9月以降に開花する特殊な個体の中でも早咲きのものになるからです。9月以降に開花するマテバシイは種全体からみると少数派で、おまけにこれまで200体近い個体で9月以降の開花を目撃してきましたが、早いものでも開花のピークは9月半ば過ぎでしたから、見つかる可能性はかなり低いのではないかと思われます。

このHPをご覧の方で、8月に開花しているマテバシイを目撃された方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡いただけるとありがたいです。