雑記385. 2020. 5.30
“ 15年かかりました ”
これまで国産のコナラ属、ブナ属、マテバシイ属について、殻斗が4個以上の堅果を包含したドングリが実在することを証明してきました(*)が、シイ属だけは長い間その存在が未確認のままでした。
ドングリは属種を問わず基本的な構造は同じなので、それらの対称性に着目すると、シイ属についても4個以上の堅果を包含したドングリが必ず存在するはずです。
* セクション25を参照願います。
シイ属の仲間はアジアを中心に100種類ぐらいが確認されており、日本にはスダジイとツブラジイの2種類があります。ただ、国外に分布するシイ属の多くは、殻斗が1〜3個の堅果を包含したものが標準形態であるのに対し、国産のスダジイやツブラジイは普通1個しか堅果を包含しません。勿論、スダジイやツブラジイでも個体によっては2〜3個の堅果を包含したものもありますが、それらは種全体から見ると明らかに少数派です(図8-385-1参照)。
おそらく、国外に分布するシイ属のように、殻斗が包含する堅果数のベースが多い種類であれば、4果以上のドングリが見つかる可能性は高いと思われますが、ベースとなる堅果数が1個しかないスダジイやツブラジイでそれを見つけ出すのは、探索を開始した時からかなり困難であることが予想されました。
しかしながら、シイ属における4果以上のドングリの存在が実証できなければ、冒頭で私が主張していることは単なる独り善がりと受けとめられてしまいますので、2006年に初めて3果のスダジイを目撃してから15年間、相当数の個体を対象により高次の多果について調査を続けてきました。その結果、遂にこの問題に終止符をうつ時がきたのです。
先日、新型コロナウィルスの緊急事態宣言が解除されて久しぶりに訪れた西神中央公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] で、殻斗の元になる器官に7つの雌花が咲いたツブラジイの雌花序を見つけました(図8-385-2参照)。
3年前に掖谷公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] のツブラジイで、一見すると5果と思われる雌花序(実際は極端に短い花軸に複数の雌花序が集結)に遭遇しました(**)が、こちらは明らかに全ての雌花が1つの殻斗の元になる器官に纏まって咲いていました。
** 雑記254を参照願います。
この雌花序を見つけた個体には、他にも2〜3果の雌花序が数多く見られました。普通のツブラジイと違って、この個体では単果の雌花序でも殻斗の元になる器官が大きなお椀のような形をしていました(図8-385-3参照)。もしかすると、このような形状が幸いして、4つ以上の雌花が咲くという稀有な事象が発現したのかもしれません。来年以降も再び高次の多果が咲く可能性があるので、引き続きこの個体をモニターしていくつもりです。