雑記384. 2020. 5.11
“ これも1つの証拠です ”
 一般に、マテバシイ属(マテバシイ、シリブカガシ)は花軸上で複数の雌花序(雌花+殻斗の元になる器官)が集結することによって、複数の殻斗が一体化したドングリが形成されると考えられていますが、私はこれに賛同できません。
 これまでHPの中で繰り返しこの考え方の問題点を指摘し、その根拠となるデータを提示してきました
(*)が、今回紹介するデータも私の解釈を支持する一つの証拠になると考えています。
* セクション25の@、雑記315、雑記374等を参照願います。

 図8-384-2は、マテバシイの果軸で見つけた極端に小さな幼果(赤色の矢印で指示)の例です。これは昨年の春に開花したもので、一般的な解釈を適用すれば、左側の幼果は3つの雌花序が集結したもので、右側の幼果は単体の雌花序ということになりますが、両者の殻斗の元になる器官のサイズを比べてみると、後者は普通のものよりも極端に小さいことが判ります。
 
 これまで果軸と幼果の関係を調査してきた結果、マテバシイでは雌花序の集結した数(単体含む)に関わらず、果軸と幼果の接合面積がほぼ同程度であることは明らかです。だとすると、右側の幼果はかなり特殊な事例だと考えざるをえません。

 一方、図8-384-3もマテバシイの果軸で見つけた極端に小さな幼果(黄色の矢印で指示)の例です。一般的な解釈を適用すれば、これは3つの雌花序が集結した幼果ということになります。ただ、これが本当に雌花序が集結したものだとすると、図8-384-2に見られるようなかなり特殊な雌花序が、偶然とは言え3つも集結したことになります。

 花軸の特定箇所に複数の雌花序(雌花+殻斗の元になる器官)が集結すると考えた場合、特殊な事例とも言える極端に小さな雌花序が特定箇所に3つも集結するなどということは、ほとんどあり得ないはずですが、現実にこのような矮小な幼果は、多くのマテバシイでごく普通に目にすることができるのです。

 このように、雌花序が集結したものとする一般的な解釈だと、前記のような事例を説明するのは非常に困難ですが、花軸にある殻斗の元になる器官(サイズは任意)に1つ乃至複数の雌花が咲いたものを雌花序とするならば、この状況を無理なく簡潔に説明することができます。そういう意味でこの事例は、マテバシイ属の雌花序がコナラ属(多果形態)と基本的に同じものであることを示す間接的な証拠と言えるのではないでしょうか。