雑記383. 2020. 5. 5
“ 近接した2つの幼果 ”
 昨年、近接した2つのアラカシの幼果の殻斗の元になる器官が合着しているのを目撃しました(*)。残念ながら、一方の幼果は開花してすぐに雌花が退化消滅したせいで殻斗がほとんど形成されなかった為、殻斗同士が合着する様子までは確認できませんでした。
* 雑記346に殻斗の元になる器官同士が合着した例があります。
 近接する雌花序が合着して、そこから出現した殻斗同士が一体化したとすれば、おそらく多果と似たような形態の殻斗が形成されるはずです。もし仮にそういう事象が存在するなら、多果の定義に修正を加えなければなりませんので、樹種を問わず果軸上で近接した幼果について調査を開始しました。その結果、数は少ないのですが、現在までにシラカシとアカガシ、そしてマテバシイで似たようなシチュエーションを見つけました。

 図8-383-1はシラカシの果軸上で近接した2つの幼果ですが、2果と単果が密着するぐらい近接しているにも関わらず、2つの殻斗の元になる器官は合着しているようには見えませんでした(*)
 また、図8-383-2はアカガシの果軸上で近接した2つの幼果ですが、こちらもシラカシと同様に合着しているようには見えませんでした。この個体には、他にもこれに類似したシチュエーションが2組ありましたが、どれも同じような状態でした。

 これらの例から、果軸上で複数の雌花序(幼果)が近接しても、それらの殻斗の元になる器官同士が合着するのは極めて稀にしか起こらない事象であることがおわかり頂けると思います。

 一方、図8-383-3はマテバシイの果軸上で近接した2つの幼果です。マテバシイの長い果軸にはたくさんの幼果がありますが、果軸の特定箇所に複数の幼果が集結したのはこれしか見つかりませんでした。

 この図は、同じ個体の同じ果軸について、上段が昨年の7月上旬(開花後1ヶ月経過)、下段が今年の3月下旬に撮影したものです。この図の上段の右側の幼果を例に、雌花序(幼果)(**)の構造について説明すると、花柱とその周辺の白い突起物が雌花で、その周辺の濃緑色とその下の薄緑色の部分が殻斗の元になる器官に該当します。

 昨年の7月上旬の時点では、近接した2つの幼果の殻斗の元になる器官が合着しているようには見えませんでしたが、今年の3月下旬に見たら、幼果そのものがやや大きくなったせいかもしれませんが、合着しているように見えました。

 この幼果については、引き続きトレースしていくつもりですが、これ以外にも類似のシチュエーションが無いか今後も広範囲で探索を続けていきます。
** マテバシイの雌花序に対する私の解釈は、通説とは異なります。詳細は、セクション25の@を参照願います。