雑記380. 2020. 3.10
“ 殻斗の輪の数え方 ”
 HPの読者の方から、“ 殻斗の輪の数え方がよく判らないので教えてほしい ” というメールをいただきました。アラカシやウラジロガシといったアカガシ亜属のドングリの殻斗は、輪状の鱗片が積層した構造になっていますが、果軸と繋がっていた辺りの輪のようなものをカウントしてもいいかどうか、私もずいぶん迷った記憶があります。
 ところで、ドングリの本を見ると殻斗の輪について種類毎にその積層数が記載されているものがあり、中には種類を同定するのにそれを目安にしているものもあります。ですが、個体差を考慮すると、実際のところ種類によって顕著な違いは認められませんので、多くの場合、輪の数は識別のポイントにはなりません。
 ただ、私の経験上、ほとんどの種類で輪の数は9層までしか見られないのに、シラカシでは10層以上のもの(図8-380-1参照)が存在することから、こういう特殊なケースでは識別のポイントに成り得ると思います。

 話が少し横道に逸れましたが、それでは輪の数え方について説明します。ドングリの殻斗は、花軸にある殻斗の元になる器官に雌花が咲くことによってその頂部が開放し、中から殻斗が出現します(*)。殻斗の元になる器官は、ドングリが成長しても果軸と殻斗の間に残存しており、しかも殻斗の輪と形態がよく似たものもあるので、この部分と殻斗の輪を明確に区別できれば、輪の数を正確に数えることができます。
 一例として、果軸と繋がった状態のシラカシの殻斗を図8-380-2に示します。黒っぽく見えるのが殻斗の元になる器官で、それ以外の部分が殻斗ですが、これだけはっきりと見た目に差があれば、殻斗の輪の数を数え間違えることはないでしょう。ところが、殻斗の輪に亀裂が入っていたり、殻斗の元になる器官と殻斗の輪が近接していると、両者を区別しにくいことがあります。その典型的な例を図8-380-3に示します。
* セクション26の1項を参照願います。

 これは、果軸に繋がった状態のツクバネガシの殻斗です。果軸に近い部分の殻斗の元になる器官と殻斗の輪の形態がそっくりですが、果軸と繋がっている部分にあるのは殻斗の元になる器官であって殻斗そのものではありません。ですから、パッと見輪の数は9層に見えますが、実は8層なんです。


 いろんな形態の殻斗を見慣れてないと中々難しいかもしれませんので、最後に2つだけ例を挙げておきます。1つはウラジロガシの殻斗です(図8-380-4参照)。最上部にあるのは殻斗の元になる器官なので、その下から数え上げると輪の数は全部で9層になります。最下層は部分的に断絶していますが、これも1つの輪です。

 そしてもう1つは、果軸と繋がった状態のアラカシの殻斗です(図8-380-5参照)。図8-380-3で説明した通り、果軸と繋がっている部分にあるのは殻斗の元になる器官であって殻斗そのものではありませんので、その下から数え上げると輪の数は全部で7層になります。 

 ということで、上記の点に留意すれば、これまで輪の数え方が分かりにくいと感じておられた方も明確にカウントできるようになると思うのですが...いかがでしょうか?