雑記378. 2020. 2.17
“ 分離したカシワの殻斗 ”
先月末から始めた採集サンプルの整理がようやく終了しました。採集したことすら忘れていたサンプルもたくさんあり、しかもそれらの中から稀少なものが見つかるにつれ、普段からこまめに整理することの必要性を痛感しました。さて、今回で最後になりますが、前回報告した時点からあらたに見つかった稀少なサンプルを紹介します。
今から6年ぐらい前に採集したカシワの殻斗の中から、2つに分離した殻斗が見つかりました(図8-378-1、2参照)。実のところ、採集した当時はこの殻斗の存在に全く気づいていませんでしたが、ここ数年の間に成長した殻斗に見られる変形や分裂といった事象が、殻斗の元になる器官の形態と深く関わっていることが明らかになってきたこともあり、常々そういう視点で殻斗を観察するようになったことが、今回の再発見に繋がったのではないかと思います。
複数の断片に分裂した殻斗は、シラカシ(図8-378-3参照)やアラカシのようなドングリではそれほど珍しいものではありませんが、鱗片が細長いクヌギやアベマキ、そしてカシワでは非常に珍しいのではないでしょうか。私が普段遭遇するドングリの木でカシワは少数派ですが、アベマキやクヌギについてはこれまで膨大な数の個体に接してきました。にも関わらず、このようにきれいに分裂した殻斗を目にしたことは一度もありませんでした。
殻斗の元になる器官は分裂しても、それぞれの断片同士が近接していれば、成長するにつれて互いが合着し最終的に一体化します。ところが、断片同士がある程度離れていると、各々がそのままの状態で成長するのでその部分の殻斗は分裂します。おそらく、このカシワの殻斗もそのような経緯で誕生したものではないかと私は考えています。