雑記376. 2020. 2. 8
“ シリブカガシにも立ってました! ”
 セクション2に掲載しているようなドングリについては、これまで採集した翌年には必ず整理して、専用の容器に入れて分類保管してきましたが、多果ドングリや変形ドングリのような特異な形態のものや、調査の為だけに大量に採集した普通のドングリや果軸等については、ほとんど未整理のまま家の中の至るところに放置してきました。中には、自室の床の上や空き部屋のクローゼットの棚の上、寝室のベットの下に段ボール箱に入れたままの状態で、長年埃を被り続けてきたものもありました。

 そして昨年の暮れには、とうとう自室はサンプルによって足の踏み場もないぐらい床が占拠され、他の部屋にもこれ以上置き場所が確保できなくなってしまいました。そこで、急遽分類保管用のケースを大量に買い込んで、先月末から少しづつそれらを整理することにしました。まだ始めたばかりですが、先日片付けている最中に貴重なサンプルが一つ見つかったので、今回はそれを紹介します。

 図8-376-1は、今から15年前に長居植物園 [ 所在地 : 大阪府大阪市 ] のシリブカガシから採集した果軸です。因みに、長居植物園にはもう10年近く行ってないので、今はどうなっているか判りませんが、当時同園に植栽されたシリブカガシが結実するドングリには、興味深い形態のものが数多く見られました。この果軸は、後日調査するつもりで大量に採集して、お菓子の空き箱に入れたまま寝室のベットの下で塩漬けになっていたものです。不要と思われたサンプルですが、あらためて手に取って一つずつ丁寧に観察してみると、果軸に並ぶ殻斗の一つにこれまで見たことが無い珍しいものがありました。

 その殻斗には、なんと内側に果軸が立っていたんです(図8-376-2参照)。しかも、その果軸の末端には不稔の殻斗が1つ着いていました。これと同じシチュエーションのものは、コナラ属のドングリの殻斗(図8-376-3参照)でしばしば目にしてきましたが、マテバシイ属ではこれが初めてでした☆

 
 同じブナ科の殻斗なんだから、シリブカガシの殻斗に果軸が立っていてもなんら不思議ではありません。ですが、一般にマテバシイ属の殻斗はコナラ属のものと成り立ちが異なる
(*)と考えられているので、私はそのような解釈が誤っていることを指摘するために、敢えてこのような事象の類似点を紹介したのです。

 現存するマテバシイ属とコナラ属の殻斗は、見た目が大きく異なります。でも、コナラ属が遠い過去に放棄した果軸の形態(多果ベースの果軸)を、マテバシイ属が今もそのまま受け継いでいることに気づけば、両者における見た目の違和感は払拭されるものと私は確信しています。
* セクション25の@項を参照願います。