雑記374. 2019.12.11
“ P(シリブカガシ) >> P(マテバシイ) ”
 表題にある二重の不等号 『 >> 』 は、普通の不等号よりも両者の差がかなり大きい場合に使用します。一方、P(シリブカガシ)とP(マテバシイ)は、各々シリブカガシとマテバシイのドングリに見られるある形態の出現率を私なりに表現したものです。そして、ここで言うある形態とは、複数の堅果が合着したドングリのことです(図8-373-1参照)。

 要するにこの不等式は、マテバシイよりもシリブカガシの方が合着した堅果の出現率が圧倒的に高いことを意味しているのです。これは、あくまで私の経験的な数字を基に導き出したものですが、たぶん間違っていないと思います。その根拠は、国産のマテバシイ属の樹木の中で、シリブカガシはマテバシイに比べて植栽数が極めて少ないにも関わらず、合着した堅果を目撃する頻度が後者とは比べ物にならないぐらい高いからです。

 京阪神では、植物園や一部の公園等のごく限られた場所でしかシリブカガシを見ることはできません。にも関わらず、これまで探索に出掛ける度に合着した堅果を採集してきました。2009年に長居植物園 [ 所在地 : 大阪府大阪市 ] を訪れた時には、特定の個体から30個以上、さらに他の複数体から採集したものをあわせると全部で100個以上も採集しました。これは、2年に1〜2個の割合でしか合着した堅果を見かけないマテバシイからすると、信じられない数量です。

 なぜシリブカガシの方が合着した堅果が出現しやすいのか、これまであまり真面目に考えたことはありませんでした。でもよく考えてみると、シリブカガシの出現率の方が圧倒的に高いのは、至極当然の事なのかもしれません。

 
 マテバシイやシリブカガシといったマテバシイ属では、一般に複数の殻斗が合着して1つの殻斗を形成していると解釈されています。要するに、1つの殻斗の元になる器官に1つの雌花が咲いたものが単体の雌花序で、それらが複数個合着したものという考え方です。しかしながら、私がこれまで調査してきた結果、マテバシイ属の殻斗はあたかも複数の殻斗が合着しているかのように見えるだけで、実際には堅果の形態やその数に応じて1つの殻斗がフレキシブルにその姿形を変化させたものであるということが解ってきました
(*)。要するに、1つの殻斗の元になる器官に1つだけではなく、1つ乃至複数の雌花が咲いたものが単体の雌花序であるという考え方です。

 では、私の解釈に従ってマテバシイとシリブカガシの雌花序を比較してみましょう。一つは、殻斗の元になる器官のサイズです。これは、多くの個体でマテバシイの方がシリブカガシよりも多少大きめであることは言うまでもありません。そしてもう一つは、そこに咲く雌花の数です。マテバシイでは普通1〜3個の雌花が咲くのに対し、シリブカガシでは1〜5個とやや多めです。これらの状況から考えると、小さな殻斗の元になる器官にたくさんの雌花が咲くシリブカガシの方が、隣接する雌花同士が合着する可能性が高いことは容易に想像がつきます。因みに、一般的な解釈(1つの殻斗の元になる器官に1つの雌花が咲いたものが単体の雌花序で、それらが複数個合着したものという考え方)で両者の違いを説明できないことはあらためて言うまでもありません。

 ということで、今回紹介した事象は、マテバシイ属の殻斗の成り立ちについて私の解釈を支持する一つの証拠になるのではないかと考えています。
* セクション25の@を参照願います。