雑記373. 2019.12. 6
“ 堅果に突き刺さった棘のような... ”

 図8-373-1は、高塚山緑地 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] にあるアラカシの結実風景です。パッと見、ごく普通のアラカシのようですが、実はこの個体に結実するドングリは、普通のアラカシとは少し違ったある特徴を有してるんです。その特徴というのは、果皮から露出した花柱がとっても長いということです(図8-373-2参照)。しかも、柱頭付近を除くとしっかり束になっているので、まるで小さな棘が堅果に突き刺さっているかのように見えるんです。花柱のスケールがかなり小さいので、この写真だけではわかりづらいかもしれませんが、典型的なアラカシのドングリ(図8-373-3参照)と見比べてみると、刺々した様子がはっきりと判ります。

 
 ところで、少しばかり変わったこのドングリを採集していたら、ふとこのドングリが雌花だった頃の姿を確かめてみたくなりました。なぜなら、ドングリを構成するパーツの中で、花柱だけは雌花の時からほとんど形態が変わらないので、たぶんこの個体の雌花は他の個体のものには見られない特異な姿をしていたんじゃないかと思ったからです。
 以前、この個体の雌花を撮影した記憶があったので、自宅に帰ってからパソコンに保存しているデータファイルを探ってみたところ、ややピントがズレてましたが、目的の写真が見つかりました(図8-373-4参照)。そこには、ドングリに見られる特徴がそのまんまで、普通のアラカシの雌花
(*)とは比較にならないぐらい花柱の存在感が際立っていました。

 成長しても変化しない花柱は、個々のドングリの成り立ちに関する様々な知見をもたらしてくれますが、決してそれだけのものではありません。実は、この部位に見られる形態の多様性こそ、ドングリの奥深さを物語るのに一役も二役もかっているのです。詳しくは、セクション29 [ 微視的多様性の世界 ] をご覧下さい。
* 雑記299を参照願います。