雑記372. 2019.12. 2
“ 紐状殻斗に見られる形態の妙 ”
単果、多果といったドングリの形態によらず、殻斗の元になる器官に咲いた極微な単一雌蕊をもつ雌花が早期に退化消滅すると、その存在しないはずの雌花を包含するように殻斗だけが成長します。これは、私が考えている紐状殻斗が形成されるメカニズムです(*)。
* セクション3-2-4を参照願います。
これまで目撃してきた紐状殻斗の典型的な形態例を図8-372-1と図8-372-2に示します。いずれもシラカシで、前者が多果形態、後者が単果形態における紐状殻斗の例です。単果形態については様々な樹種で見られます(**)が、多果形態になると大半はシラカシやアラカシ、ツクバネガシといったアカガシ亜属のもので、それらはどれも細長く、先端が尖って一点に収束するような形をしています。
* セクション26-3を参照願います。
ところが、先月西神中央公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] のウバメガシから採集した紐状殻斗(***)の中に、これまで目にしてきたものとは随分違った形態が多数見つかりました。それらの中で主だったものを以下に紹介します。
*** 雑記371を参照願います。
まず、根元から先端に向かうほど太くて凹凸が激しくなる紐状殻斗です(図8-372-3参照)。パッと見、先端部に不稔の堅果が包含されているように見えますが、これに類似した形態の紐状殻斗を切断して内部を確認したところ、堅果の存在は認められませんでした。
次に、これも根元から先端に向かうほど太くなる紐状殻斗ですが、先端部が二股になってます(図8-372-4参照)。図8-372-3の先端部に見られる凹凸がうまい具合に配列すると、このように綺麗な二股になるのかもしれません。
そして最後は、根元から先端に向かう途中で分岐して、そこからさらに延伸した紐状殻斗です(図8-372-5参照)。先端部の凹凸は、図8-372-3のものよりも激しく、このような形態を紐状殻斗と形容していいものかどうか迷ってしまいます。
では、シラカシに見られないこのような奇妙な形態の紐状殻斗が、どうしてウバメガシに存在するのでしょうか。はっきりとした理由は判りませんが、ウバメガシやコナラの単果形態の紐状殻斗の中には、平べったい形をしたもの(図8-372-6参照)やハートのような形をしたもの(図8-372-7参照)が見られることから、もしかするとコナラ亜属とアカガシ亜属における鱗片の構造の違いが関与しているのかもしれません。
シラカシのようなアカガシ亜属の殻斗は鱗片がリング状なので、堅果を包含しない殻斗の場合、その末端に向かうにつれて徐々にリングが小さくなるから一点に収束しやすいのかもしれません。一方、ウバメガシのようなコナラ亜属の殻斗は、鱗片が瓦状なので前者よりも鱗片の配列の自由度が高く、より複雑な形態の紐状殻斗が形成されやすいとは考えられないでしょうか。