雑記368. 2019.11.12
“ リボンをつけた殻斗 ”
 西神中央公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] にあるウバメガシの中に、この樹種には似つかわしくないぐらい、大きくて頑丈な殻斗をもったドングリが生る個体があります。11月も中頃になると、他のウバメガシではあらかたドングリの落下は終了しますが、この個体の落下のピークはこれからです。単に大きくて頑丈そうな殻斗であれば、他でも時々見かけますが、この個体の殻斗にはそれらと異なる点が1つあります。それは、頑丈そうな外観とは裏腹に、毎年結実したドングリの半数近くを大きな亀裂が入った殻斗をもつものが占めている事です(図8-368-1参照)。

 
 殻斗に亀裂が生じる原因は様々ですが、最も大きな要因は多果の発現によるものと私は考えています
(*)。2014年に初めて同園を訪れた時に、亀裂が入った殻斗が大量に落下しているのを目にしてから、いつかこの個体に多果ドングリが結実する日が来るかもしれないと信じて毎年マークしてきたのですが、昨年まではさっぱりヒットしませんでした。
    * セクション3-2-1を参照願います。

 ところが、先日この個体の樹下をチェックしたら、地面に落ちた少量のドングリの中から3果のドングリが2つも見つかりました(図8-368-3参照)。どちらも、1つの殻斗が3つの堅果を分離して包含するタイプの多果ドングリでした。

 ウバメガシで多果ドングリが結実することは非常に稀で、これまでに他の個体で2果のドングリなら目撃したことはありますが、3果のドングリはこの個体が初めてです。3果と言っても、3つの内の2つは不稔ですが、それらの幾何学的な配置が絶妙で、堅果を覆う殻斗の姿は、まるでリボンをつけたヘアスタイルそのものです☆

 さらに、その日は3果のドングリだけでなく、紐状殻斗をもつ殻斗も見つかりました(図8-368-4参照)。紐状殻斗と私が呼んでいるのは、殻斗の元になる器官に咲いた極小の単一雌蕊をもつ雌花が、開花して間もなく退化消滅した後に、存在しないはずのその雌花を包含するために成長した殻斗のことです(**)。因みに、殻斗の一部として紐状殻斗が存在するケース(***)は、多果の発現率が高いシラカシではしばしば目にしますが、その他の樹種では稀にしか見ることができません(****)
    ** セクション3-2-4を参照願います。
  *** 単果の殻斗であれば、様々な樹種で紐状殻斗を目撃しています。セクション26の3項を参照願います。
**** 雑記291にツクバネガシの多果ドングリで目撃した例があります。

 月末にかけて、この個体ではまだまだドングリが落下しますので、この先まだまだ多果ドングリが見つかるかもしれません。もしも特筆すべき形態のものが採集できたら、ここであらためてご紹介します。