雑記364. 2019.10.24
“ 僅か1分足らずでした ”
 先日、高塚山緑地 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] でコナラシギゾウムシがコナラのドングリに穿孔している場面に出くわしました。これまでにも幾度か目撃してきましたが、彼らはいつも私の目線よりも高所にある枝で作業していたので、片手で枝を引きずり落ろさないとうまく撮影できませんでした(*)。しかも、穿孔した後の産卵シーンについては時間が短いこともあり、まともに撮影できた例がありませんでした。
 ところが、今回は運よく地面から1mも離れていない枝で作業してくれていたので、労せずして穿孔から産卵に至るまでの一部始終を撮影することに成功しました!
* 雑記282を参照願います。

 この日、コナラシギゾウムシを目撃した時には、まだコナラのドングリにしがみついて穿孔する位置を選定している最中でした。そして、しばらくすると狙いが定めて、露出した堅果のやや上方にある殻斗の上から穿孔を開始しました(図8-364-1参照)。

 
 その後、口吻を突き刺した状態で器用に頭を左右に捩じったり、何度も口吻の抜き差しを繰り返しながら、口吻の根元がドングリに触れるぐらいまでこの作業を続けていました(図8-364-2参照)。作業開始から穿孔完了までは30分弱ぐらいでしたが、ここからが本番です。

 ドングリから口吻を勢いよく抜き取って小休止した後、穿孔した辺りにお尻を当てがって産卵管を差し込む準備を始めました(図8-364-5参照)。

 そして、6本の足でしっかりとドングリに体を固定すると、お尻から産卵管がグイっと伸びてきました(図8-364-6参照)。産卵管は半透明なので、お尻の先から産卵管を通して卵がドングリに注入される様子がはっきりと見て取れました。産卵管の差し込み口が定まってから産卵が終わるまでの間は連写モードで撮影し、後で画像に記録された撮影時間を確認したところ、産卵に要した実作業時間は僅か56秒でした。

 
 今回は晴天でほぼ無風に近い状態だったこともあり、コナラシギゾウムシも30分少々で全行程を完遂していましたが、風が強い日にはしばしば作業を中断するので、1時間以上かかっていたこともありました。そういう点からみると、一連の作業に要する時間は、対象となるドングリの個体差よりも、むしろ周囲の環境に大きく左右されるように思われます。何はともあれ、この日はコナラシギゾウムシにとって絶好の産卵日和だったのではないでしょうか。

 余談になりますが、コナラシギゾウムシの穿孔作業が始まってから、しばらくの間ほかのコナラを探索していたところ、春から秋にかけて開花を繰り返す個体でちょっと珍しいドングリを見つけました。

 普通のコナラは、ミズナラやナラガシワと違って滅多に多果を結実することはありませんが、コナラでも季節外れに開花する個体にはたくさんの多果を発現するものがあり、極めて稀に結実することもあります。高塚山緑地にあるこの個体も、数年前に堅果分離型の2果のドングリを結実しました
(**)

 この日私が見つけたのは、多果に成り損ねたとは言え、その痕跡を明確な形で殻斗に残したドングリです(図8-364-7参照)。このドングリの殻斗本体から突出した小さな殻斗は、開花時に殻斗の元になる器官に咲いた2つの雌花の内、早期に退化消滅した一方の雌花を包むために形成されたもの(紐状殻斗の一形態)です
(***)。一見するとNGの殻斗のように思われるかもしれませんが、実はこれ、なかなかのレア物なんですよ〜☆
  ** 雑記278を参照願います。
*** 雌花が消滅しても、殻斗の元になる器官はそれが存在したことを記憶しており、消滅した時期やそのサイズに応じてそれを包含するための殻斗を形成すると私は考えています。