雑記362. 2019.10.15
“ ドングリのサイズを決める最大の要因 ”
 樹上に生っているドングリを見ていると、同じ個体でもしばしば標準的なサイズより小さなものがあることに気づきます(図8-362-1参照)。だいぶん前になりますが、標準的なサイズのドングリよりもかなり大きなものが生じる要因について明確なものを2つ紹介しました(*)。今回、それとは逆に、標準的なサイズよりもかなり小さなドングリが生じる要因について、これまで調査してきた結果をご紹介します。

 
 ドングリのもとになる雌花序は、殻斗の元になる器官とそこに咲く雌花で構成されていますが、両者の構造が明確に見て取れるアラカシやシラカシで開花の様子を観察してきた結果、これらのサイズには雌花序ごとに違いがあることが判りました。とりわけ、殻斗の元になる器官についてはその差が顕著でした(図8-362-2参照)。一方、雌花については花柱の数が5〜6本以上になると極端に大きくなります
(*)が、花柱の数が同じものどうしを比較するとサイズはほぼ同じぐらいでした。また、目で見てはっきりとわかるような小さな雌花は稀にしか存在しませんでした。

 そこで、これらのサイズの組み合わせが成長したドングリのサイズを決定していると推測し、組み合わせごとに開花時からある程度のサイズの幼果に成長するまでの形態の変化をトレースしてみました。
* 雑記128を参照願います。


ケース1. 標準的なサイズの殻斗の元になる器官に、標準的なサイズの雌花が咲いた場合
 殻斗の元になる器官と雌花の両方が標準的なサイズなので、当たり前ですが、標準的なサイズのドングリが結実します。
ケース2. 標準的なサイズよりも小さな殻斗の元になる器官に、標準的なサイズの雌花が咲いた場合
 図8-362-2は、開花して間もないシラカシの花軸の様子です。通常、殻斗の元になる器官に雌花が咲いて成長するとドングリになりますが、雌花が咲かなかった場合は、殻斗の元になる器官のまま花軸上に残留します。図中の赤い丸(1〜5)で囲んだものがそれに該当しますが、これらはいずれも標準的なサイズ(**)よりも小さなものばかりです。

 1〜3のような極端に小さな殻斗の元になる器官には雌花は咲きませんが、4や5のようなものなら雌花が咲くことがあります。但し、殻斗の元になる器官は、花軸から雌花へと養分を送る中間媒体のようなものなので、それが小さければ小さいほど養分を供給するパスが狭窄されて、雌花が成長するのに必要な養分を送ることができなくなります。ですから、殻斗の元になる器官のサイズが小さいほど、雌花の成長が阻害されることが予想されます。
 図8-362-3の水色の丸で囲んだ幼果は、標準的なサイズよりも極端に小さな殻斗の元になる器官に雌花が咲いてからおよそ一ヶ月が経過した例です。桃色の丸で囲んだ普通の幼果に比べると、水色の丸で囲んだ幼果は開花後ほとんど成長していないことが判ります。このように、極端に小さな殻斗の元になる器官に咲いた雌花は、ほとんどがそのサイズに関わらず開花から2ヶ月程度で枯死してしまい、ドングリとして結実することはありませんでした。但し、標準的なサイズよりもやや小さい程度であれば、図8-362-1のように小さいながらも成長して結実するものもありました。
** 図8-362-2の花軸上には、開花しなかった標準的なサイズの殻斗の元になる器官はありませんが、開花した雌花序の下部にあるものが、標準的なサイズの殻斗の元になる器官のものと同じぐらいだと考えてもらえればいいと思います。詳細は、セクション26を参照願います。

ケース3. 標準的なサイズの殻斗の元になる器官に、標準的なサイズよりも小さな雌花が咲いた場合
 ドングリの花柱は、成長しても雌花の時とサイズがほとんど変わらないので、花柱を見れば幼果や成熟したドングリの元になる雌花のサイズがわかります。
 図8-362-4の黄色い丸で囲んだ幼果は、標準的なサイズの殻斗の元になる器官に、標準的なサイズよりも極端に小さな雌花が咲いた例です。この組み合わせのものはこの幼果に限らず、開花から2ヶ月程度で枯死してしまうので、ドングリとして結実することはありませんでした。
 おそらく、標準的なサイズよりもやや小さい雌花であれば結実することもあると思われます
が、そういう場合、雌花のサイズがドングリのサイズに影響を与えているかどうかまでは確認することができませんでした。なぜなら、花柱が非常に小さい為、標準的なサイズよりも極端に小さなものであれば判別できますが、多少小さいぐらいだと標準的なサイズとの差を読み取ることができないからです。
 
 たた、図8-362-1のような極端に小さなドングリの花柱は、どれも標準的なサイズのものとほとんど変わらなかったので、雌花のサイズが多少小さくても、ドングリのサイズに影響を与えることはないと考えられます。

ケース4. 標準的なサイズよりも小さな殻斗の元になる器官に、標準的なサイズよりも小さな雌花が咲いた場合
 ケース2でふれましたが、標準的なサイズよりも極端に小さな殻斗の元になる器官に咲いた雌花は、そのサイズに関わらず結実しませんでした。ただ、標準的なサイズよりもやや小さい殻斗の元になる器官に、標準的なサイズよりもやや小さな雌花が咲いた場合であれば結実する可能性が十分あると思います。ただ、ケース3と同様、それらの微妙な差がドングリのサイズに影響を与えているかどうかまでは確認することができませんでした。

 以上の結果から、標準的なサイズよりも極端に小さなドングリが生じる理由として、殻斗の元になる器官のサイズが大きく関与していることが判りました。ここでは、小さなドングリに限定して話を進めてきましたが、殻斗の元になる器官には標準的なサイズよりも大きなものも当然存在します。ですから、殻斗の元になる器官のサイズは、小さなドングリだけでなく、同じ個体に結実する全てのドングリのサイズを決める最大の要因であると私は考えています。