雑記354. 2019. 9.10
“ ルール無用のアベマキ ”
私の勤務先の近くにある摂津伊丹廃寺跡 [ 所在地 : 兵庫県伊丹市 ] に、かれこれ20年以上もの間、ほぼ毎日のように目にしてきた1体のアベマキがあります(図8-354-1参照)。
この個体は、廃寺跡の敷地に入らなくても、私の通勤経路の側道から5メートル前後の至近距離に立地しているので、そこからでも開花や結実の様子がよく判ります。一昨年の秋に大部分の枝葉が伐採されたせいで、昨年は少量しかドングリが結実しませんでしたが、私の知る限りその年を除けば、毎年コンスタントに大量のドングリを結実し続けてきました。
今年もドングリが結実する時期がきたので、先日撮影の為に立ち寄ったところ、この個体の樹上にこれまで見たことがない奇妙な光景が広がっていました(図8-354-2参照)。ドングリについてよくご存知の方であれば、この図のおかしなところにすぐ気づかれると思うのですが、みなさんはいかがでしょうか。
正解は、新枝の先の方にある今年開花したばかりの幼果が、既に来年の6月上旬〜中旬頃に見られる姿形に変態しているところです。図8-354-2とは異なる枝で、幼果の様子がよく判る写真をあらためて図8-354-3に示します。この図の水色の枠で囲んだ幼果が、今年の4月に開花したものです。
アベマキのドングリは2年成ですから、枝を見るとドングリが結実した旧枝の先に今年伸長した新枝があって、そこに花とほとんど変わらない姿形の小さな幼果が着きます(図8-354-4参照)。通常、今年の4月に開花した幼果は、来年の5月下旬頃までこの図の姿形(赤枠で囲んだ幼果)のまま休眠するので、図8-354-2や図8-354-3に見られる幼果は明らかに異常です(*)。
* アベマキの開花から結実に至るまでの様子はセクション13-4を参照願います。このセクションに掲載した写真は、正にこのアベマキで撮影したものです。
このように2年成の幼果が異常変態する現象は、ここ2年間で僅かですが複数の樹種で目撃しています(**)。因みに、アベマキではこの個体の他に2体で確認しました。但し、異常変態した幼果は一つの個体に数個からせいぜい20個程度であり、それらは全て結実には至りませんでした。
** 雑記295にスダジイの例を挙げてます。
これまで目撃してきた事象に比べると、この個体のものには特筆すべき点が2つあります。一つは、今年開花した幼果の少なくとも半数以上がこのような姿形であったことです。ただ、変態した幼果のほとんどは、来年の6月上旬〜中旬頃の姿形に該当するもの(図8-354-5参照)で、これまでにも同時期に他のアベマキで目撃したのと同じ姿形ですから、たぶん結実には至らないだろうと思います。
そしてもう一つは、僅かではありますが、前述のものよりも一回り大きい来年の7月中旬〜下旬頃の姿形に該当するもの(図8-354-6参照)が併存することです。これを見た時、私は驚きのあまり樹上を見つめたまま、しばし呆然としてしまいました。なぜなら、この個体の結実時期は9月中旬〜下旬頃なので、結実までのタイムラグが2ヶ月弱ぐらいの幼果であれば、もしかすると10月下旬〜11月上旬頃に結実するかもしれないからです。
2年成といってもほとんどの期間はただ休眠(***)しているだけですから、ドングリの種類によっては2年成でもその気になれば、その年の内に結実する可能性は十分にあると私は考えています。あと1〜2ヶ月で、この個体が実(?)をもってそれを証明してくれるかどうかはわかりませんが、11月頃までこの木から目が離せなくなりました。
*** 春と秋以降に開花したマテバシイの幼果が、共に翌年の同時期に結実することから、休眠期間中は幼果の内部で化学的な変化は伴わないものと考えられます。