雑記352. 2019. 8.19
“ 2年成のもう一つのメリット ”
 ドングリの生る樹には、春に開花してその年の秋に結実する1年成のものと、春に開花(もしくは秋に開花)して翌年の秋に結実する2年成のものがありますが、後者についてはなぜこのようなシステムが存在するのか未だに解明されていません。

 私もドングリに興味をもち始めてから十数年間、この2年成というシステムがもつメリットが皆目理解できませんでしたが、ドングリの生る樹に見られる特異な開花現象に着目して調査を続けてきた結果、漸くこのシステムがもつメリットが判りました
(*)。それは、“ ドングリの樹が年に複数回開花することを前提にした場合、1年成よりも2年成の方がドングリの結実量を増やせる ” ということです。
* 雑記310を参照願います。
 このアイデアは、マテバシイ(マテバシイ属)でしばしば見られる、春から冬にかけて年に複数回開花する個体において、春だけ開花する普通の個体よりも翌年の結実量が格段に多くなるという事実(図8-352-1参照)と、国内に分布するドングリの樹で2年成が存在するコナラ属やマテバシイ属、シイ属では、現在でも春から秋にかけて開花を繰り返す個体が存在するという観察結果を元に推測しました
 これらの生態を有する個体は、現代のブナ科の植物においては明らかに少数派ですが、該当する個体に見られる太古の形質(多果や両性花の発現、異様に長い花軸等)を見れば、2年成というシステムが誕生した頃には、こちらの方がむしろ一般的であった可能性が高いのではないかと考えます。


 ところで、2年成のメリットには結実量を増やせることの他に、実はもう一つメリットがあるんです。前回(*)、それを指摘するのに都合のいいデータを持ち合わせていなかったので割愛しましたが、今年の夏、それを端的に示すデータを取得したので、以下に補足事項として記しておきます。

 年に複数回開花するマテバシイの中には、春と秋以降に開花したものが共に結実するケースがあることから、私は2年成のメリットとして結実量を増やせることを指摘しました。但し、年に複数回開花するマテバシイの中でもそういう個体は稀で、実際のところは春に咲く花は結実しても、秋以降に咲く花は不稔という個体が大半を占めています。これだと、普通のマテバシイの結実状況とあまり変わらないので、もう一つのメリットに気づきにくいかもしれませんが、図8-352-2を見れば2年成の素晴らしさがはっきり理解できると思います。

 この図は、昨年の5月と10月の年に2回開花したマテバシイの様子で、5月に咲いた花が不稔で10月に咲いた花だけが結実する事例を表わしたものです。5月に咲いた花が全て不稔の場合、年に1度しか開花しない普通の個体だと翌年の結実量はゼロになってしまいますが、この個体のように10月に咲いた花がそれを補償することでゼロになるのを回避できます。要するに、“ 花期のチャンスが一度しかない1年成に比べて、年に複数回の開花を前提にした2年成は結実に対する確度が高まる ” と言えるのではないでしょうか。これは結実量を増やせることと同義かもしれませんが、2年成というシステムがもつもう一つのメリットであると私は考えています。