雑記351. 2019. 8.16
“ 果軸を内包する多果 ”
 多果の形態のバリエーションを豊かにしている要因の一つとして、殻斗の内側に現れる独立した第二、第三の殻斗の存在が挙げられます。セクション17の “ 異形多果ドングリの世界 ” の中で具体例を紹介していますが、あらためてここに代表的な例を示します(図8-351-1参照)。

 この小殻斗は、殻斗の内側に出現した極端に短い花軸にある殻斗の元になる器官に咲いた雌花(おそらく極微な単一雌蕊の雌花)が退化消滅した後に成長したものです。このような形態の多果は、多果の発現率が高いシラカシの中でも大量に多果を発現する個体か、あるいは遺伝的に多果を発現しやすい個体(*)によく見られますが、これまでに目撃した小殻斗は、全て堅果と隣り合わせに並ぶような形で殻斗の内側に包含されていました(図8-351-2、図8-351-3参照)。
* 雑記311を参照願います。

 
 ところが今年の夏、多果を大量に発現した個体(シラカシ)で多果の幼果の形態を観察していたら、あらたに多果の殻斗(堅果分離型殻斗)の仕切りの内部に埋没した小殻斗が見つかりました(図8-351-4、図8-351-5参照)。

 
 多果の殻斗の内側に形成される堅果を分離する仕切りは、殻斗の元になる器官に咲いた隣接する雌花の間隙が拡がることによって形成されますが、これらの多果ではその間隙に花軸が立つことで、仕切りの内部から小殻斗が出現したものと思われます。

 殻斗の元になる器官に咲く雌花や、そこに立つ花軸(殻斗の元になる器官やそこに咲く雌花)の形態の組み合わせを考えると、まだまだ未知のバリエーションに出会える可能性は十分にあると思われます。