雑記349. 2019. 8. 7
“ 合着する殻斗片 ”

 図8-349-1は、京都御苑 [ 所在地 : 京都府京都市 ] にある特定のツクバネガシから採集したドングリです。このように殻斗の周囲が波打ったり、大きく捻じれたリ、部分的に欠損したものは、ドングリを採集しているとたまに見かけることがあります。
 この図のように殻斗が変形する要因は様々ですが、蒲池公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] にある特定のアラカシについて調査した結果、主たる原因が殻斗の元になる器官の分裂(図8-349-2参照)によるものであることが明らかになりました
(*)
   * 雑記296を参照願います。

 ところが、この調査は単に殻斗が変形する原因の究明に役立っただけのものではありませんでした。実は、この現象がコナラ属のお椀形の殻斗が殻斗片の合着によって誕生したもの(**であることを示唆する重要な証拠に成り得ることに後日気づいたのです。
 ** セクション25を参照願います。
 通常、コナラ属の殻斗の元になる器官は小籠包(あるいは宝珠)のような形(***)をしています。ところが、蒲池公園のこの個体では、多くの幼果で殻斗の元になる器官が分裂しているのです。分裂した各々の断片は殻斗片のようなものですから、隣接したこれらの断片同士が合着して一体化することが確認できれば、お椀型の殻斗も元々は複数の殻斗片から誕生したものであることを示す証拠になるというわけです(****)
*** セクション26を参照願います。
 今年の5月の花期から、このアラカシの特定の幼果にスポットを当てて、実際に分裂した殻斗の元になる器官が成長するにつれて合着するかどうか観察したところ、近接した断片同士が合着する様子がはっきりと確認できました(図8-349-3参照)。

 
 シイ属やクリ属、ブナ属等の殻斗が、殻斗片が寄り合わさって構成されたものであることは、成熟した殻斗が分裂する様子や成熟前の殻斗に見られる継ぎ目の存在から容易に想像できますが、継ぎ目が全くないコナラ属の殻斗についても、殻斗片から進化したものであることが、このデータを見れば直感的に理解できるのではないでしょうか。
**** 分裂した殻斗の元になる器官の場合、器官の断片からそれぞれ殻斗が出現します。