雑記346. 2019. 7. 3
“ 合着することもあるんですね ”
 今年の5月、これまで見たことが無い光景を目の当たりにしました。なんと、アラカシの特定の果軸で隣接した2つの殻斗の元になる器官が合着していたんです!図8-346-1の上段が初めて目撃した5月16日に撮影したもので、下段がその1ヶ月後の6月16日に撮影したものです。

 
 2つの合着した幼果の一方は普通の単果ですが、片方は殻斗の元になる器官の上部が開口したまま、1ヶ月の間ほとんど変化がないことから、開花した雌花が早期に退化消滅して殻斗の元になる器官だけが残存したものと思われます。以前からこのHPの中で、殻斗の元になる器官はどんなに隣接しても合着することはないと断言
(*)してきましたが、今回の件でそれを撤回しなければならない事態になりました。
* 雑記257を参照願います。
 合着した2つの幼果が普段私が目にする多果でないことは、この幼果と果軸との接触面積が単体の幼果に比べて合着した分だけ大きくなっている様子を見れば明らかです。一般に、多果を発現しやすいシラカシから果軸を採取して、単果と多果(3果)の幼果が果軸と接触している面積を比較してみると、両者にほとんど差はありません(図8-346-3 等倍撮影写真参照)。これは、多果が1つの殻斗の元になる器官に複数の雌花が咲くことによって生じたものであり、複数の開花した殻斗の元になる器官が合着して形成されたものではないことを示す明確な証拠だと私は考えています。

 
 複数の殻斗の元になる器官が合着したものは多果ではありませんが、これらが成熟すると多果に酷似した形態になることが予想されますので、引き続きこの幼果の成長過程をトレースしてみます。また、この幼果以外の属種で類似する例がないかどうか、さらに詳しく調査してみます。

(追記)
 図8-346-4は、この幼果を目撃してから約二ヶ月後に撮影したものです。図中左側の幼果は、殻斗の元になる器官から僅かに殻斗が顔を覗かせていますが、6月半ばに見た時からほとんど成長していませんでした。この後、さらに半月程が経過した8月9日に見ると、この幼果は果軸から脱落していました。

 結局、この幼果の観察結果から言えることは、
隣接する殻斗の元になる器官は稀に合着することがあるということだけでした。この幼果の観察を通して私が一番知りたかったのは、成長するにつれて殻斗の元になる器官から出現した殻斗同士が合着する(**)かどうかということだったんですが、その答えを得るには新たなサンプルを探し出して、根気よく観察を続けていかなければならないようです。
** 複数の異なる殻斗の元になる器官から出現した殻斗が、合着することによって多果ドングリが形成される可能性を検証するのに必要です。