雑記334. 2019. 3.27
“ シリブカガシで見つけました! ”
 昨年の秋に京阪神の各地で大量に採集したシリブカガシの果軸を整理していたら、1つの殻斗が6個の堅果を包含したドングリが見つかりました。
 一般に、マテバシイやシリブカガシのようなマテバシイ属は、複数の花序(雌花+殻斗の元になる器官)が花軸上に集結して、複数の殻斗が合着したドングリになると解釈されています。でも、殻斗の成り立ちについて私が調査した結果、この解釈はドングリの実態にマッチしないことに気づきました(*)
 
 ドングリとは “ 花軸に独立して存在する1つの殻斗の元 になる器官に、1個乃至複数個の雌花が咲いて結実したもの ” です。花軸の特定の箇所に複数の雌花が集結することはあっても、それは1つの殻斗の元になる器官に対して集結しているのであって、単体の雌花序(雌花+殻斗の元になる器官)が複数個集結しているわけではありません。これは、属種が違ってもドングリに共通の概念であると私は考えています。
 最終的な殻斗の形態は、殻斗の元になる器官に咲いた雌花の配置やサイズによって決まるので、中には外観上複数個が合着したように見えるものもありますが、それらは全て1つの殻斗が包含する様々な形態の堅果に対してフレキシブルにその姿形を変化させたものなんです。
* 雑記315を参照願います。

 さて、前置きが少し長くなりましたが、今回見つけた1つの殻斗が6個の堅果を包含したシリブカガシのドングリは、そう簡単に見つかる代物ではありません。通常、我々が目にするシリブカガシのドングリでは、1つの殻斗が包含する堅果の数は多くても5個です(図8-334-1参照)。

 一方、同じマテバシイ属でもマテバシイでは、1つの殻斗が包含する堅果の数は多くても3個です。ただ、マテバシイでは極めて稀に4個乃至5個を包含したものに遭遇することがあります(図8-334-2参照)。このように、マテバシイでもシリブカガシでも殻斗が包含する堅果の数はせいぜい5個で、これまで6個以上のものを目にしたことはありませんでした。

 
 ドングリは属種が違っても基本的な構造は同じであることから、共通の祖先型というものが存在するはずです。私は、Formanが想定するような祖先型(**)は存在せず、カクミガシ属のドングリこそが祖先型に最も近い形態であり、そこからコナラ属やブナ属、マテバシイ属が分化したのであれば、各々の殻斗が包含する堅果の数に対称性があると考えてきました。ただ、これまでシラカシ(コナラ属)とイヌブナ(ブナ属)でそれぞれ最大6個の堅果をもつドングリ(**)を確認しましたが、マテバシイ属では6個の堅果を包含したものが実在するかどうか明らかになっていませんでした。

 そんなわけで、今回シリブカガシ(マテバシイ属)で見つけた6個の堅果を包含したドングリ(図8-334-3参照)は、ドングリに共通の祖先型が存在することを裏づける一つの間接的な証拠になるのではないかと考えています☆
** セクション25 Bを参照願います。