雑記331. 2018.12. 6
“ あのウラジロガシに花が咲きました! ”

 12月になりました。ドングリシーズンもいよいよ終盤で、先日訪れた掖谷公園 [ 所在地:兵庫県神戸市 ] ではコナラの葉が赤くきれいに色づいていました(図8-331-1参照)。

 その日は、青空の下でコナラやクヌギの紅葉(黄葉)を撮影しようと思っていたのですが、先日たくさんの多果ドングリを結実したウラジロガシ
(*)のそばを通りかかった時、樹上に季節外れの花(図8-331-2参照)が咲いているのを見つけた瞬間、紅葉のことはすっかり念頭から消え去っていました。
   * 雑記328を参照願います。

 
 6年前に複数のブナ科の樹木で季節外れの開花現象
(**)を目撃して以来、毎年夏から冬にかけて樹種を問わずこの現象について調査してきましたが、コナラやナラガシワのようなコナラ亜属の樹木ではしばしば目撃してきましたが、アカガシ亜属については皆無でした。

 私が日常的に接する機会が多いのはコナラやクヌギのようなコナラ亜属の樹木ではなく、アラカシやシラカシのようなアカガシ亜属が圧倒的に多数を占めています。にも関わらず、いままでこの現象を確認できなかったということは、アカガシ亜属では余程の珍事なのかもしれません。
  ** セクション22を参照願います。

 
 それでは、ウラジロガシにおける季節外れの開花状況について以下に簡単にまとめておきます。

 開花した枝は、樹木全体で24箇所ありました(樹高が5m程度なので、全体の様子を容易に見渡せます)。開いた冬芽のほとんどは雄花軸ばかりでしたが、4箇所だけ雌花軸を囲むように雄花軸が開花しているところがありました。雄花は既に枯れているものがほとんどでしたが、中には開花したばかりのものも混在していたので、おそらく11月の上旬か、あるいは中旬から咲き始めたものと思われます。

 雄花軸については、コナラ亜属の樹木で季節外れに開花したものと同様に、通常の花期に見られるものよりもやや短かめでした。一方、雌花軸については、通常の花期のものよりもやや長めで25〜30mmぐらいあり、そこに数10個もの雌花が密集して咲いていました。この様子もコナラ亜属のものとよく似ていますが、開花した雌花の大半が多果形態(両性形態含む)である点が大きく違っていました。コナラ亜属でも多果形態の雌花は見られますが、雌花軸に開花したほとんどの雌花が多果形態だったのはこのウラジロガシだけでした(図8-331-3参照)。

 今年の秋に話題になった季節外れの桜の開花は、単に春に咲いたものと同じ形態の花序が秋に咲いたというだけで、取り立てて注目すべき点はありません。ですが、コナラ属の樹木における季節外れの開花は、通常の花期とは花序の形態が違っており、しかも原初的な要素が多分に含まれていることから、ブナ科の植物における花の進化過程を探究する上で極めて重要な事象であると私は考えています。詳細については、セクション22にウラジロガシの項を追加して、後日あらためてご紹介します。