雑記322. 2018.10.31
“ 特異な形態が勢揃い ”
 シラカシには、他の種類ではあまり見られない特異な形態のドングリが数多く存在します。代表的なものとして、1つの殻斗が2個以上の堅果を包含した多果形態のものや、殻斗の元になる器官に咲いた雌花が早期に退化消滅して殻斗だけが成長した単果形態のもの(*)、そして前二者の複合体とも言える紐状殻斗の着いた単果形態(広義の多果形態)のもの(**)の3種類が挙げられます。
 3種類の特異な形態が、シラカシ以外の特定の個体に集結することは極めて稀ですが、今年の夏、高塚山緑地 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] でこれらが勢揃いしているウバメガシを見つけたのです。
    * セクション25の2項を参照願います。
  ** セクション3-1-4の4項を参照願います。
 高塚山緑地のウバメガシには多果を発現しやすい個体がいくつかあって、以前多果形態のものと殻斗だけが成長した単果形態のものの2種類が同じ個体にあるのを目撃したことがあります(***)。ただ、それらはいずれも小さな幼果の段階で落果してしまいました。ところが、今回見つけた3種類の特異な形態は、成熟体と同じぐらいか、あるいはそれにかなり近い状態のものばかりでした。以下、形態別に詳細を記します。
*** 雑記305を参照願います。

1. 1つの殻斗が2個の堅果を包含した多果形態

 図8-322-1は、1つの殻斗が2つの堅果をまとめて包含した2果(堅果統合型)です。一方の堅果は、もう一方に比べてやや小さめでした。2つの堅果が隣接した部分を見ると、両者の境界がはっきりしないぐらい密着していたことから、殻斗の中で2つの堅果は合着していたと思われます。残念ながら、9月4日に台風21号が通過した直後に枝から消失してしまいました。

 図8-322-2のドングリも、1つの殻斗が2つの堅果をまとめて包含した2果(堅果統合型)です。殻斗の内側に残る離層の痕跡や、堅果のへその形を見れば、2果であることは明らかです。2つの堅果は完全に合着しており、小さな方の堅果に合着した2つの首が残存していました。多果は普通の単果に比べて成熟するのが半月程早いので、この状態でほぼ成熟していたと考えて間違いないでしょう。

2. 殻斗だけが成長した単果形態

 図8-322-3と図8-322-4は、殻斗の元になる器官に咲いた雌花が早期に退化消滅して殻斗だけが成長した単果です。コナラでは殻斗だけが成長した単果をよく目にしますが、ウバメガシではあまり見られません。1年成の樹種だと、殻斗だけの単果は開花してから3ヶ月程度で成長が止まりますが、2年成のウバメガシでは開花してから1年成よりもちょうど1年間長い15ヶ月ぐらいで成長が止まりました。


3. 紐状殻斗の着いた単果形態(広義の多果形態)

 図8-322-5と図8-322-6は、殻斗の元になる器官に咲いた2つの雌花の内、一方の雌花が早期に退化消滅して、もう一方の雌花だけが成長した単果です。殻斗の元になる器官に2つの雌花が咲いたということは、多果として発現したことを意味するので、私はこれを広義の多果として分類しています。

 殻斗の元になる器官に2つの雌花がある程度の距離をおいて咲き、その後一方が早期に退化消滅した場合にこのような形態のものが誕生しますが、近接して咲いた2つの雌花の一方が消滅した場合は、前者とは全く違う変形ドングリ “ 変形くん ”
(****)になります。因みに、これまでに紐状殻斗が着いた単果を目撃したのは、シラカシとツクバネガシ(*****)の2種類だけだったので、このウバメガシが3例目ということになります。
  **** セクション3-2-1を参照願います。
***** 雑記291を参照願います。