雑記032. 2010.10.23
“ 自然が創り出した秘の芸術作品 ”
 兵庫県三田市にあるはじかみ池公園のコナラで奇妙なものを発見しました(図8-32-1参照)。コナラの葉っぱの付根部分から、まるで男性器を彷彿とさせる異様な物体が屹立していたのです。

 この物体を枝から取り外して先端部分を見てみると、殻斗の表面を覆う鱗片の様なものが、小さく歪んだ堅果を取り囲んでいるのが判りました(図8-32-2参照)。形は変ですが、これは明らかにドングリでした。それにしても、このコナラのドングリは、何故こんなにも破廉恥な形をしているのでしょうか。

 これと似たような形状のドングリが無いかどうか周囲のコナラを探索してみたのですが、このように御立派なチンポ......じゃ無くてドングリは、1個しか見つかりませんでした。ドングリの構造について詳しく調べたいのですが、サンプルは1個限りなので、これを解体するわけにはいきません。とりあえず、ある程度サンプル数が確保出来るまでは、外観を実体顕微鏡で拡大観察するだけに留めておくことにしました。

 図8-32-3に、実体顕微鏡で見たこのドングリのディティールを示します。先端部を拡大すると確かにこれがドングリであることが判ります。ところが、先端部(図中桃色枠)から付根部(図中緑色枠)までを走査すると、殻斗の鱗片が見られるのは先端部から胴部(図中青色枠)の途中までで、そこから付根部に至る箇所はドングリ本体では無く、殻斗の付根から伸びる短枝(果軸)が肥大した組織のように思われます。

 
 植物の組織がこのように不自然に肥大変形している部分は、昆虫の寄生による虫瘤(*)である可能性が高いので、これと類似したものが有るかどうかHPや文献を検索してみました。その結果、コナラの虫瘤(下記参照)として、タマバチ科の昆虫が冬芽や葉に形成するケースは存在するものの、殻斗やその付根の短枝(果軸)に寄生する例は皆無でした。また、虫瘤の形状についても既知のものを精査したのですが、これに該当するものはどこにも見当たりませんでした。

 もしかすると、この虫瘤を形成している寄生虫は、セクション9で紹介したタマバチの仲間のように、世間一般には認知されていない新種か文献未記載種なのかもしれません。

コナラの虫瘤の例

 1. ナラメリンゴタマフシ    : ナラメリンゴタマバチによってコナラの芽に形成
 2. ナラメイガフシ        : ナラメイガタマバチによってコナラ、ミズナラ等の芽に形成
 3. ナラメカイメンタマフシ   : ナラメカイメンタマバチによってコナラの枝端の芽に形成
 4. ナラハウラマルタマフシ  : ナラハウラマルタマバチによってコナラの葉裏の葉脈上に形成
 5. ナラハヒラタマルタマフシ : ナラハヒラタマルタマバチによってコナラの葉裏の葉脈上に形成


 今後、はじかみ池公園も含めた近隣の公園のコナラを徹底的に調査して、この寄生虫の生態を明らかにしたいと思います。調査に進展があればあらためてご紹介します。
 *  虫瘤やドングリの寄生虫については、セクション9を参照願います