雑記310. 2018. 9. 5
“ 2年成のメリット ”
 昨年の9月、蒲池公園 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] で奇妙なスダジイの幼果を見つけました(*)。スダジイは2年成なので、通常春に開花してから翌年の春に再び開花するまでの間は、開花した時と姿形はほとんど変わりません。ところが、この奇妙な幼果は開花してから3ヶ月ぐらいしか経っていないのに、開花した翌年の5月下旬から6月頃の姿形に変態していたのです(図8-310-1 参照)。
   * 雑記295を参照願います。

 その後、この幼果の変化をトレースしていたのですが、他の幼果が急激に成長し続けていく中、これらの異常変態した幼果に大きな変化は認められませんでした(図8-310-2参照)。昨年末に確認したら、殻斗がやや白っぽく変色していたので、もしかするとその時点で既に枯死していたのかもしれません。珍しい事象なので、興味をもって観察してきたのですが、残念な結果に終わってしまいました。


 ところで、ドングリの生る樹にはどうして2年成というシステムが存在するのでしょうか。2年成のものは、幼果の形態がほとんど変化しない休眠期間を除くと、実質1年成のものとほぼ同じ期間でドングリを結実します。にも関わらず、これらの樹種が天候や食害と言った外乱の影響を受けやすい2年成を選択したのか、私には不思議でなりませんでしたが、最近になって1つだけこのシステムがもつメリットに気づきました。
 そのメリットというのは、ある条件下だと1年成よりも2年成の方がドングリの結実量を増やせるということです。その条件というのは、年に複数回開花(**)することです。マテバシイを例に挙げると、春と秋の年に2度開花する個体では、その個体が春だけ開花した時よりも明らかに結実量が増します(図8-310-3参照)。即ち、それだけ子孫を残せる可能性が高くなるということです。以前目撃した山田池公園 [ 所在地 : 大阪府枚方市 ] の個体は、春と同じぐらい秋にも開花した結果、その翌年の秋には結実量の大幅な増加が認められました。

 こういう個体は少数派なので、一般には例外的な事象としてとらえられているかもしれません。ですが、現在でもコナラ属やマテバシイ属、シイ属の個体に季節外れの開花現象(**)が散見されることから、太古の昔にはこれらの属種の多くが1年を通して繰り返し開花していた可能性が考えられます
(***)。だとすれば、これらの属種が繁栄する手段として、2年成というシステムはきわめて有効に機能していたことが予想されます。
  ** セクション22を参照願います。
*** ラマスシュート(2度伸び現象)は、一般に解釈されているような単に繰り返し枝葉を伸ばして成長するだけでなく、かつてはそこに子孫を残す為の開花が伴っていたのではないかと私は考えています。

 以上の考察は、あくまで私の推測です。現在の状況からするとデメリットしかないように思われる2年成ですが、それらの属種が誕生した当時の様子を想定することで思わぬメリットが見出せました。実はこの事に、私自身がとても驚いています。