雑記309. 2018. 9. 4
“ ここのアラカシは特別です ”
国産のアカガシ亜属の樹木の中で、シラカシの多果の発現率は他の樹種とは比べものにならないぐらいハイレベルです。但し、多果が発現してもそれらが無事に結実する割合は極めて低いので、発現率が高いシラカシでも普通は数個〜10個ぐらいしか結実しませんが、稀に数100個も結実する個体があります。
一方、シラカシとよく似たアラカシはDNAレベルでも近縁関係にあるにも関わらず、多果を発現しにくい傾向があります。稀に大量に多果を発現(*)した個体でも、開花してから2〜3ヶ月ぐらいで全て枯死してしまうことが多いので、成熟した多果ドングリを目にすることは滅多にありません。因みに、昨年までに私が多果の結実を確認したアラカシは10体ぐらいですが、それらの中で20個以上の多果を結実したことがあるのは山田池公園 [ 所在地 : 大阪府枚方市 ] にある1体だけでした(**)。
* 雑記052で取り上げた個体は、その一例です。
** 雑記242を参照願います。
このように、アラカシで多果が発現するのは極めて稀な事象ですが、先日以前目撃したのとは異なる山田池公園の2つの個体(個体A、Bとする)で、あらたにたくさんの多果の幼果を見つけました。いずれの個体も確認できる範囲で30〜40個もあり、それらは既にかなり大きく成長していました(図8-310-1〜4参照)。
シラカシもそうですが、多果の形態には2つのタイプがあります。1つは殻斗が複数の堅果をまとめて包含するタイプ(堅果統合型殻斗)で、もう1つは殻斗が複数の堅果を分けて包含するタイプ(堅果分離型殻斗)です。
これまでの経験から、多果では前者のタイプが圧倒的に多いのですが、今回見つけた個体Aでは後者のタイプが大半を占めていました(***)。さらに、どちらの個体も果軸の長さが一般的なアラカシよりもやや長めで、以前同園でたくさんの多果を結実した個体(**)と同じく30mm前後もありました。私は、コナラ属の果軸長と多果の発現の間には強い相関がある(果軸長の長いものほど太古の形質を現代まで多分に残している)と考えていますが、今回の事例もその考えを否定するものではありませんでした。
*** これらの形態の違いが生じる原因については、セクション3-1-4を参照願います。
これらの個体でドングリが成熟するには、あと2ヶ月ぐらいかかります。多果は普通の単果に比べてやや早めに成熟する傾向があるので、残り1.5ヶ月といったところでしょうか。この調子だと、多少落果してもそれぞれの個体で20個前後の多果ドングリが結実しそうです。今年は台風が多いのでちょっぴり心配ですが、無事に結実してくれることを祈っています。