雑記303. 2018. 7.10
“ 殻斗から現れた果軸 ”
このHPでは、普段我々が目にすることがない奇妙な形のドングリを数多く紹介しています。それらの中で、殻斗の裾や殻斗から離れた堅果の表面、あるいは殻斗の内側にある小殻斗(*)については、これまで殻斗本体の内側にある維管束が分岐延伸した先に形成されたものと考えてきました(図8-303-1参照)。
* これらの異形ドングリの詳細については、セクション17を参照願います。
ところが、3年前にある個体を目撃した幼果がきっかけで、それ以来調査を続けてきた結果、これらの小殻斗は維管束が分岐延伸した先に形成されたものではなく、殻斗の内側に出現した果軸に形成されたものであることが明らかになりました。殻斗から果軸が出現するなんて、俄かには信じがたいかもしれませんが、百聞は一見にしかずです。まずは、一連の調査のきっかけとなったものをご覧下さい(図8-303-2参照)。
これは服部緑地 [ 所在地 : 大阪府豊中市 ] のコナラで撮影したものです。この個体は、春から秋にかけて断続的に開花する特殊な個体で、普通のコナラではほとんど見られない多果や両性形態の花序や、花軸だけでなく枝にも開花するといった原始的な形質を多分に保持しています。
この図を見ると、堅果とは異なるものが殻斗から少し突き出して、その先に新たな殻斗と堅果があるのが判ります。これを目撃した時、もしかするとこの少し突き出した部分は果軸かもしれないと思いましたが、これだけで殻斗から果軸が出現したと判断するには、情報量があまりにも不足していました。
それから昨年末までの間に、他の場所に植栽された同様の形質をもつコナラからも類似の形態を3例目撃しました。それらはいずれも、図8-302-2と同様に果軸と思われる部分の長さが極端に短く、明確に果軸と断定できるような代物ではありませんでしたが、今年に入って高塚山緑地 [ 所在地 : 兵庫県神戸市 ] で、遂に殻斗の内側から果軸が出現したことを示す確たる証拠が見つかりました(図8-303-3参照)。
これにより、今まで殻斗から維管束が延伸した先に形成されたと考えてきた小殻斗が、実は殻斗から出現した果軸に着いた幼果(堅果は退化消滅)であることが明らかになったのです☆