雑記301. 2018. 6.20
“ スプリットしているわけではありません! ”
この幼果の花柱(複合雌蕊)の脇にある、小さくて細長い髭のようなものは単一雌蕊です(図8-301-1〜2参照)。遠目には普通の単果(*)のように見えますが、実は複合雌蕊と単一雌蕊から成る多果なんです。
* このHPでは、殻斗の元になる器官に複数の雌花が咲いたものを多果(の雌花序)、1個だけ咲いたものを単果(の雌花序)と称することにしています。
以前HPの読者の方から、これらの髭のようなものは複合雌蕊がスプリット(分裂)したものではないかとのご質問を頂戴したことがありますが、多くの個体で現物を検分してきた私の目から見て、その可能性は低いと考えられます。
ブナ科の植物の雌蕊は、心皮とよばれる特殊な葉(胚珠をつけた葉)が複数枚合わさって形成されています。図8-301-3は3本の花柱をもつ雌蕊の例ですが、この雌蕊は3枚の心皮が右図のような配置で合着したものです。各心皮の葉先が柱頭に、そして葉面を繋げたものが子房に相当します。
以前、受精前のシラカシの幼果(単果)の花柱と子房の関係を調査(**)していたら、ときどき花柱の数と子室の数が一致しないことがありました。調査の結果、2本の花柱が合着して見た目が1本になっているか、あるいは1本の花柱がスプリットして見た目が2本になっていることが原因であることが判りました。さらに、花柱がスプリットしたものについては、どれも心皮の葉面方向にスプリットしており、葉面に対して垂直方向にスプリットしないことも判りました(図8-301-4参照)。
普通葉の場合、葉っぱを葉面に平行方向に割く(スプリット)のは簡単ですが、垂直方向に割くのは不可能です。おそらく、雌蕊を形成する心皮についてもこれと同じことが言えるのではないでしょうか。
** セクション14を参照願います。
そこで、あらためてスプリットの方向性に着目してこの幼果を観察してみました。すると、髭のようなものの何本かは複合雌蕊の外側に位置する(図8-301-5 赤矢印で指示したものを参照)ことから、これらは複合雌蕊がスプリットしたものではなく、複合雌蕊に隣接した単一雌蕊であると考えられます(***)。
一方、複合雌蕊の2本の花柱の間に位置するもの(図8-301-5 赤矢印で指示してないものを参照)については、単一雌蕊かスプリットした複合雌蕊のいずれの可能性もありますが、花柱の外側に位置しているものと形態が酷似していることから、これらも単一雌蕊である可能性が高いと私は考えています。
*** 花柱の数が6本以上ある複合雌蕊については、子室が子房の高さ方向の中心軸に対して同心円状ではなくランダムに配置されるので、図8-301-5のように、子房の中心軸に対して垂直方向に複数の花柱が並ぶこともあります。