雑記030. 2010.10.18
“ 拾えそうで拾えない植物園 〜 神戸森林植物園 〜 ”
 兵庫県に移り住んでから彼是20年になりますが、毎年この季節になると、六甲山中にある森林植物園に出掛けます。当初は、兵庫県内でも街中に住んでいたので、偶には自然と触れ合う機会を設けたいと思い、家族と一緒にここでハイキングを楽しんでいたのですが、10年前に自然の真っ只中にある現在の住い(三田市)に転居してからはその必要も無くなり、以来ドングリに興味のある私だけが、同園に足重く通い続けています。
 私が頻繁に出入りするぐらいだから、みなさんは、さぞかしここではいろんなドングリが採集出来るのだろうと思われるでしょう。勿論、日本のドングリの樹はほとんどの種類があり、園内の至るところに植栽されています。また、レッドオーク、ピンオーク、ヨーロッパブナ等の外国のドングリの樹もあります。

 それらの樹木の位置やドングリの落下時期について大体把握しているので、ドングリ採集を楽しむにはもってこいの場所.....の筈なんですが、これまでにまともにドングリが採集出来たのは、僅か数回程度しかありません。しかも、その量は微々たるもので、むしろここには、ドングリは落ちていないのが当たり前といった状況でした。
 こんなにもドングリが拾えそうで拾えない植物園は、京阪神地区でも珍しいと思います。

 森林植物園でドングリが採集し難いのには、幾つかの理由があります。その一つとして、毎年安定な結実量が期待出来るクヌギやアベマキと言った樹種が少ない代わりに、結実量が不安定(不作年が多い)なコナラ等がドングリの樹の中心である為、不作年には園内にドングリそのものがほとんど存在しない状況になります。
 もう一つは、山を切り開いて造った植物園なので、ドングリを餌にしている野生動物が多いことから、落下しても直ぐに彼らの胃袋に収まってしまうのです。野生動物でも色々いますが、大分以前に天然記念物のニホンカモシカを間近で見てビックリした記憶があります。
 あと、山中であるが故に昆虫による食害も激しく、ほとんどのドングリは未熟なままの状態で落下してしまいます。仮に成熟しても産卵孔のあるもの(ドングリの中に虫が入っているもの)が多いので、採集の対象にはなりません。
 そんな理由で、ここではドングリの採集は断念し、普段目にしない植物を見たり、ドングリ以外の木の実や松ぼっくり等を拾って楽しむことにしています。

 しかしながら、ドングリ採集を諦めたとは言え、5年程前から1つだけどうにかして採集出来ないものかと密かに画策し続けているものがあるのです。それは、堅果長が30mmを超える立派なナラガシワのドングリで、成熟したものはちょうど今時分(10月15日〜25日頃)に落下します。
 落下時期がはっきりしているので、普通なら容易に採集出来そうなものですが、このナラガシワも例外では無く、昆虫による食害が激しい(図8-30-3参照)為、成熟するまで樹上に残っているドングリは極僅かであり、その僅かなドングリを、野生動物達と私とで奪い合うことが採集を著しく困難にしているのです。

 これまでに採集出来たとしても、1シーズンにたった1個だけでしたから、ほとんど期待はしていませんが、今年もトライするつもりでここを訪れました。

 9時の開園から10分と経たない内に、ナラガシワの林にたどり着きましたが、地面には大きな殻斗が幾つか転がっているものの、堅果はどこにも見当たりませんでした。双眼鏡で樹上を探索すると、茶色く色づいた大きなドングリが数個程度確認出来たのですが、たくさん結実しているのならまだしも、こんな状況では終日待っても落ちてくる可能性はありません。残念ながら、今回も諦めざるを得ませんでした。

 気を取り直して、園内の北米地区の樹木を見に行くと、珍しいことにレッドオークからたくさんのドングリが落ちていました。堅果の表面に密生する白い毛が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いており、美しい事この上ありません♪これこそ、正に自然が作り出した第一級の芸術作品です♪♪
 採集している間も樹上から幾つか落ちてきたので、たぶん今が落下の最盛期なんでしょう。樹下には落葉のクッションが敷き詰められていたので、高所から落下するにも関わらず、傷一つ無いきれいなドングリでした。

 木の実であれば、どんなものでも拾うとうれしくなってくる性分なので、レッドオークのドングリがたくさん採集出来たことで、私はすっかり上機嫌になってしまいました。帰り際には、オニグルミ
(*)の実 [ 図8-30-6、7参照 ] やチョウセンゴヨウ(**)の松ぼっくり [ 図8-30-8参照 ] がたくさん落ちているのを発見し、周囲の目も気にせずに拾いまくっていると、あっと言う間に背中のリュックサックが満杯になりました。

 年齢のせいか、はたまたリュックサックの重みによる充足感によるものか定かではありませんが、本来の目的が空振りに終わったことなどすっかり忘れ去ってしまう程に、昨日は森林植物園の散策をエンジョイすることが出来ました。
 


  *  オニグルミ [ 学名: Juglans mandshurica var. sieboldiana ] 種子は食用になります

** チョウセンゴヨウ [ 学名: Pinus koraiensis ] 種子は食用になります