雑記295. 2018. 5. 9
“ ちょっと早過ぎませんか? ”
 図8-295-1をよくご覧下さい。これは、開花を間近にひかえた4月下旬のスダジイを撮影したものです。この中に、他の個体ではお目にかかれない珍しいシチュエーションが存在するのですが、みなさんはお気づきになられましたでしょうか?

 答えは、図の中央付近の果軸にある幼果の形態です(図8-295-2参照)。スダジイは2年成なので、この時期の果軸に見られる幼果は、前年に開花した雌花と同じぐらいの大きさで茶色く変色したものが普通です(図8-295-3 中央写真参照)。ところが、この果軸にはそれらの幼果に混ざって、開花した翌年の5月下旬から6月以降にならないと見られない幼果が着いています(図8-295-3 右写真参照)。

 
 実は、この果軸の幼果を初めて目撃したのは昨年の9月上旬なんです。ということは、この幼果は昨年の5月に開花してから僅か4ヶ月も経たない内にこのような姿に変態していたことになります(図8-295-4参照)。この個体では、確認できる範囲で類似の形態の幼果を7個見つけましたが、どれも昨年の9月上旬から姿を変えずに、現在まで果軸に残存しています。

 ドングリの雌花は受粉しても直ぐには受精しませんし、受精の有無に関わらず、開花から一定の期間は無条件に成長します(*)。シラカシを例に挙げると、開花してから約1.5ヶ月間は、受精しなくても雌花の何倍もの大きさにまで成長します(図8-295-5参照)。
* ブナ科の雌蕊は胚珠を包含する複合雌蕊が一般的ですが、極めて稀に胚珠を包含しない単一雌蕊が存在します。胚珠をもたない単一雌蕊の雌花が成長する様子をトレースすると、開花後約1.5ヶ月の間は普通の複合雌蕊をもつ雌花と同じように成長します。その後、前者は成長が停止し、後者のみが急激に大きくなります。以上の点から、雌花は受精の有無に関わらず、ある程度の大きさまで無条件に成長すると考えられます。

 今回見つけた異常変態した幼果も、もしかすると受精する前の状態で成長が一時停止しているだけかもしれません。このまま枯死してしまうか、あるいはこれから秋にかけて他の幼果とともに成長し続けるのか、しばらくは目が離せない状況が続きそうです。2年成のドングリの成長メカニズムを考える上で、この個体が何らかの知見をもたらしてくれることを私は密かに期待しています☆