雑記293. 2017.12.21
“ 実は、渦だらけでした! ”
昨年11月、ドングリ探検ツアーに出かけた久米島で、少量ながら輪状ではなく渦状の鱗片をもつオキナワウラジロガシの殻斗を採集しました(*)。同じアカガシ亜属の仲間で、普段からよく目にするアラカシやシラカシについては、渦状の鱗片をもつ殻斗を見たことがありませんが、オキナワウラジロガシの殻斗を見ていると、私が気づかないだけで、実は本土のウラジロガシにも渦状のものがあるのではないかと思えてきました。
そこで、これまでに私が京阪神の各地から採集してきたウラジロガシのドングリの殻斗をあらためてチェックしてみました。すると、思った通り渦状の鱗片をもつ殻斗が見つかりました。しかも、渦状の殻斗は個体毎に分類保管している34個体分の全てに存在しました(図8-293-1参照)。
* 雑記250を参照願います。
それからちょうど一年が経った今年の秋、特定の個体からもっとたくさんのウラジロガシの殻斗を採集して、それらの鱗片構造を詳しく調査してみました。検体となる殻斗は、ウラジロガシの結実状況が比較的良かった掖谷公園 [ 所在地:兵庫県神戸市 ] の個体から採集しました。同園には10体余りのウラジロガシが植栽されていますが、今年はその中の6体でドングリが結実し、内2体については各々500個以上ドングリを落していました。
ウラジロガシのドングリがほぼ落下し尽くした12月2日に同園を訪れて、計2000個以上の殻斗を採集しました。それらの鱗片の形状を隈なくチェックしたところ、渦状の鱗片の中には渦の巻き方が時計回りのものと反時計回りのものが混在していました(図8-293-2参照)。また、殻斗の頂点(果軸との接続部分)から渦を巻き始めて、1周半ほど反時計回りに渦を巻いてから輪状に遷移しているものが1つ見つかりました(図8-293-3参照)。因みに、これらの特徴はオキナワウラジロガシの殻斗にも同じように見られました(*)。
さらに、ドングリの結実状態が良好であった2体から採集した殻斗について、個体別に鱗片の形状を集計した結果、
・ 個体 1 : 計 676個 [ 輪状 : 460個、渦状 : 216個 (時計回り:108個、反時計回り : 108個) ]
・ 個体 2 : 計 923個 [ 輪状 : 691個、渦状 : 231個 (時計回り:109個、反時計回り : 122個) 、渦⇒輪状遷移 : 1個 ]
となり、どちらも全体の20〜30%の殻斗が渦状の鱗片をもち、渦の巻き方は時計回りと反時計回りのものがほぼ同じ割合でした。
ウラジロガシの殻斗の鱗片に見られる渦の実態について、現在に至るまでほとんど無知であったことは、自称ドングリマニアとしてお恥ずかしい限りですが、殻斗全体に占める渦状の割合がこれほど高いとは思ってもみませんでした。
オキナワウラジロガシでは、採集した殻斗の僅か3%にしか渦状の鱗片が存在しなかったことや、渦を巻き始めたものが輪に遷移した殻斗が存在するのを見て、アカガシ亜属の鱗片が渦状になるのは単なる構造上のNGではないかと思っていたのですが、ウラジロガシの実態を目の当たりにして、それが間違いであることがわかりました。
もしかすると、渦状の鱗片が多いウラジロガシと輪状の鱗片が主のアラカシやシラカシの殻斗を比較分析することで、渦が発生しやすい殻斗とそうでないものとの構造上の違いが明らかになるかもしれません。本件については引き続き調査し、新たな知見が得られたら機会をみてご報告します。