雑記289. 2017.11.27
“ あなたは加熱派?それとも冷凍派?? ”
 10年前にこのHPを開設した時、その最後のセクション [ =セクション5 ] に、当時私が試行していたドングリを加熱してから乾燥させる保存方法について掲載しました(*)。でも、ここ数年は同じドングリを加熱するにしても、以前のようにドングリを水に漬けた状態から沸騰させるのではなく、容器に入れたドングリに直接沸騰したお湯を注ぐやり方に変えています。
 
 参考までに、現行の加熱処理のフローの概要を図8-289-1に示します。セクション5の内容についても、これを多少アレンジして近いうちに改訂する予定です。
  * このHPを開設した2008年11月には、全部で5つのセクション(セクション1〜5)で構成されていました。

 
 加熱処理のやり方に変えたことで、過度に加熱した時に堅果の首の辺りが裂けることがほとんど無くなりました。また、作業そのものを大幅に簡略化したことで、大量のドングリでも比較的簡便に処理できるようになりました。

 このように、ドングリを保存するためのプロセスに若干手を加えることがあっても、私は根っからの “ 加熱推奨派 ” です。ただ、世間には拾ってきたドングリを冷凍庫に入れて数日間放置し、その後取り出したものを自然乾燥させる “ 冷凍推奨派 ” の方も多いと聞きます。
 そこで今回、実際にドングリを加熱、冷凍処理してみて、各々のメリットとデメリットを明らかにしてみました。

 実験は、今年の9月から11月の約2ヶ月間に亘って行いました。ドングリは、摂津伊丹廃寺跡 [ 所在地 : 兵庫県伊丹市 ] にあるアベマキの特定の個体から採集したものを使用し、1個当たりの重量が9〜11g(アベマキの平均的なドングリよりはやや大きめ)で、大きさや形がなるべく同じものを選定しました。
 そして、それらを32個集めて、各々の総重量が300g程度になる3つのグループを作製し、加熱処理したもの、冷凍処理したもの(マイナス15℃設定)、そして何も処理をしなかったものに分けて、処理後は直射日光を避けた風通しのいい場所で自然乾燥させながら、ドングリの重量や外観の経時変化を調べました。

(実験1)
 この実験には、果皮が退色していないドングリを使用しました(図8-289-2参照)。これらのドングリは、成熟して樹から落下した後、どれも数日しか経っていないものばかりで、加熱処理したもの、冷凍処理したもの、そして何も処理しなかったものの初期重量は、それぞれ305g、303g、300gでした。

 各グループにおける重量の経時変化を表8-289-1にまとめます。縦軸は各グループの初期重量を100%にした時の重量(%で表示)、横軸は自然乾燥を開始してから経過した日数を表しています。冷凍処理したものについては、冷凍庫に5日間保管した後、そこから取り出した後の重量変化をプロットしたので、冷凍庫に保管していた5日分だけグラフを左側にシフトしています。
  また、このドングリがほぼ脱水したと考えられるレベルについては、以前同じアベマキの個体から採集したドングリを半年間乾燥させた時の値(初期重量から34%減の66%)を参考にしました。

 表8-289-1から、ドングリを完全に乾燥させるのに要する期間は、冷凍したものよりも加熱処理したものの方が2週間〜半月程早くなりましたが、どちらの処理も2ヶ月あればほぼ完全に近い状態まで脱水できました(**)。また、いずれも果皮の割れ等、ドングリの外観を著しく損なう事態は発生しませんでした。ただ、冷凍処理したドングリの中には、へその辺りにカビ(***)が発生しているものが散見されました(図8-289-3参照)。そのため、冷凍処理した場合は、一度脱水させた後に該当するドングリのカビを拭き取って、再度水洗、乾燥しなければなりませんでした。

 一方、何も処理しなかったものについてはなかなか乾燥が進まず、開始から2ヶ月が経過しても17%しか重量が減っていませんでした。また、乾燥を開始してから20日以内に累計12/32個の果皮に割れが発生しました。そして、割れの原因の半数以上(8/12個)は発根によるものでした(図8-289-3参照)。

 ドングリは、加熱もしくは冷凍すると種子の生命が絶たれるので、果皮が収縮するにつれてその内部にある種子も収縮します。だから、加熱や冷凍処理したドングリは、乾燥させても果皮が割れにくいのです。
 一方、加熱もしくは冷凍しないと、ある程度の期間ドングリは種子としての機能を保持しています。種子は生きている間はほとんど収縮しないので、外気に直接曝されている果皮だけがどんどん収縮すると、最後には種子を包み込めなくなって割れてしまうのです。
  ** 加熱、冷凍処理した後、一週間以上が経過したドングリを温度調整できるベーク炉等に移し替えることで、乾燥時間を短縮することも可能です。
*** 加熱処理したものでも、乾燥させる容器が深過ぎたリ、容器内でドングリが積み重なっていたり、へそを下向きになっていると、黴が発生することがあります。容器はできるだけ浅いもの(ドングリの高さと同程度)を選び、ドングリが互いに重ならず、へそが必ず横向きになるように入れることをお勧めします。


(実験2)
 この実験には、へその辺りの果皮が退色したドングリを使用しました(図8-289-4参照)。これらのドングリは、成熟して樹から落下した後、2週間前後が経ったものです。これらを加熱処理したもの、冷凍処理したものの2つのグループ(初期重量は各々300g、301g)に分けて、乾燥開始後のドングリの外観の経時変化を調べました。

 その結果、乾燥を開始してから1週間以内に、冷凍処理したもののうち5/32個に果皮の割れが発生しました。その後、ドングリの重量が30%減少するまで観察を続けましたが、他のドングリに割れは発生しませんでした。一方、加熱処理したものでは、果皮の割れが発生しませんでした。
 退色したドングリに見られる加熱処理と冷凍処理によるその後の外観の違いは、両者の処理後の重量減少率の差によるものと考えられます。表8-289-1を見ると、加熱と冷凍では乾燥開始から数日間の重量減少率に大きな差があるのが判ります。前者が乾燥開始から1日目で5%、4日目で11%、7日目で15%と急激に減少しているのに対して、後者は乾燥開始から2日間はほとんど変化せず、4日目でようやく5%減少しています。
 退色したドングリの果皮は、成熟して間もないもの頃に比べて既に乾燥による収縮が進行しているので、内部の種子の収縮が遅れるとそれだけ果皮が割れやすくなるのです。

 今回の実験では加熱処理したドングリに果皮の割れは発生しませんでしたが、私のこれまでの経験から言うと、加熱処理しても割れを回避できなかったケースもありました。ですから、加熱処理によって果皮の割れはかなりの割合で回避できますが、100%ではないことを留意願います。

(結論)
 2つの実験の結果から、採集した時の状態によらず、短期間で外観を損なわずにドングリを保存するには、ドングリを冷凍するよりも加熱処理してから自然乾燥した方が良いと考えます。